会計に苦手意識を持っている経営者やこれから起業しようとしている個人事業主に、最低限持っておいたほうがよい会計の基礎知識を解説します。
「会計はなぜ企業経営に欠かせないのか」「財務会計と管理会計はなぜ別個に存在しているのか」など、経営が始めての方や苦手な方はぜひ参考にしてみてください。
1 そもそも会計とは
まずは「喫茶店で会計を済ます」行為は例に、会計の基本を見ていきましょう。企業の会計も、喫茶店でコーヒー代を支払う会計も、本質的には同じです。
1-1 企業会計も喫茶店での会計も同じ
喫茶店での会計には、次の要素があります。
- 喫茶店に入った
- 無料のお冷が出てきた
- 有料のコーヒーを注文した
- コーヒーが出てきた
- コーヒーを飲んだ
- 喫茶店での用事が済んだ
- コーヒー代を支払った
- 喫茶店を出た
このうち、「コーヒー代を支払った」という行為が会計であることは明白ですが、しかし実はこれらすべてが会計の対象になります。なぜなら、すべての行為はビジネスだからです。
喫茶店内の行為 | ビジネスの内容 |
---|---|
喫茶店に入った | ビジネスに着手した |
無料のお冷が出てきた | お冷:実はコーヒー代に含まれている 店員:労働 |
有料のコーヒーを注文した | 客:発注 店主:原材料を消費して商品をつくる 客と店主:コーヒーを購入する売買契約の締結 |
コーヒーが出てきた | 商品とサービスの提供を受けた |
コーヒーを飲んだ | 消費 |
喫茶店での用事が済んだ | 業務の終了を確認した |
コーヒー代を支払った | 商品とサービスの対価の支払い |
喫茶店を出た | 客と店主:双方ともに満足してビジネスが終了した |
表の右側の「ビジネスの内容」では、すべてに「お金に関すること」が発生します。お金に関することを数字で明らかにするのが会計ですので、すべての項目に会計が発生します。
例えばこのコーヒー代が500円だったとすると、その500円の内訳は以下のようになります。
- 店舗家賃
- 店の水道光熱費
- 労働者賃金
- 利益
- コーヒーの原材料費
- お冷代
- コーヒーカップ代
会計では、500円をここまで分解することになります。さらに分解するだけでは足りず、それぞれのお金がどのように流れるか分析しなければなりません。
そして店舗家賃や水道光熱費、労働者賃金は、前払いになったり後払いになったりします。またコーヒーは輸入品なので、原材料費はコーヒー豆市場や為替や消費動向によって変動します。コーヒーカップは高級品を買っても長年使えば元が取れます。水道代は行政との取引になります。
このように会計は、原理は簡単ですが、発生したお金を「分解」することと、分解したお金を「分析」することが難航するため、「会計は難しい」と思われているのです。
1-2 会計でステークホルダーに信用してもらう
ではなぜここまで細かくお金を分解・分析しなければならないのでしょうか。コーヒーを炒れてあげて、代金を回収するだけなら、複雑な会計は不要のように感じます。なぜビジネスでは、会計をシンプルにできないのでしょうか。
それはビジネスには、「お金について説明しなければならない」というルールがあるからです。
最も厳しくお金に関する説明を求めるのは税務署でしょう。税務署はビジネスをする人や企業などに、売上や経費や利益などを事細かに報告させ、適切な額の税金を支払うよう命じます。事業にかかったお金に関する説明がずさんだと、脱税容疑をかけられます。
また企業のステークホルダーたちも、企業にお金の説明を求めます。ステークホルダーとは、顧客、従業員、株主、債権者、仕入先、金融機関、行政など、自社のビジネスや自分の業務に関係するすべての人・組織のことです。ステークホルダーたちは、人や会社のビジネスを信用できるからそのビジネスに協力してくれるのです。
ステークホルダーたちが信用するのは、「お金の流れ」です。十分なお金があり、適切にお金が流れていることを確認できなければ、ステークホルダーたちは不安に陥ります。
例えば、会社にお金がまったくないことが判明したら、従業員はただちに退職してしまうでしょう。メーカーがまったく売れない製品をつくり続けていたら、金融機関は融資をストップするでしょう。赤字経営が続けば、株主は社長を交代させようとするでしょう。経営が傾いているという噂を聞きつけたら、債権者は代金の回収に走るでしょう。経営が順調であることを証明する手段が、会計なのです。
お金の流れを「会計」によって説明することで、ステークスホルダーは喜んでその人や企業のビジネスに協力してくれるのです。
2 財務会計と管理会計の違い
会計には、財務会計と管理会計の2種類があります。企業の経営者や個人事業主は、この2つの会計については、いずれも詳細に把握しておかなければなりません。
そこで本章「2 財務会計と管理会計の違い」では、2種類の会計の違いについて大まかに解説します。ここでイメージをつかんでおくと、後段の「3 財務会計の意義」と「4 管理会計の意義」を理解しやすくなります。
2-1 言葉だけでは信用されない
イメージをつかみやすくするために、なるべく専門用語を使わないで解説していきます。
先ほど、会計はステークホルダーを安心させるためにつけるもの、と解説しました。
ビジネスシーンでは経営者がいくら「経営は安定していますから安心してください」と言っても信用されません。だから経営者は会計という「数字」を示してステークホルダーに経営の安定性を信用してもらうのです。
では経営者が「昨年の売上高は1億円でしたが、今年は1億5千万円になりそうです」と言えば、安心してもらえるでしょうか。
言葉で説明されるよりは説得力がありますが、それでもまだ「ざっくりしすぎている」印象があります。
なぜなら、1億5千万円の売り上げがあっても、もしかしたら経費に2億円かかっているかもしれません。もし後から2億円の経費が発覚し、実は5千万円の赤字であることがわかったら、ステークホルダーは怒るでしょう。
では経営者が「1億5千万円の売り上げがありましたが、経費に2億円かかっているので、結局5千万円の赤字でした」といえばいいのでしょうか。これも問題があります。
これだけ聞いたら、ほとんどのステークホルダーたちは「この会社は倒産しそうだ」と判断し、この会社から離れていってしまいます。
したがって経営者は、次のように説明しなければなりません。
- 売上高1億5千万円、経費2億円、その結果5千万円の赤字になりました
- ただ預金や土地などの資産が3億円あるので経営に支障はありません
- また経費が2億円にまで膨れ上がったのは先行投資をしたからです。先行投資分の1億円を除けば、実質的な経費は1億円であり、本業は5千万円の黒字であると考えています
- 1億円の先行投資の内訳は、業務のIT化費用1,000万円、研究開発費4,000万円、土地の取得費5,000万円です
- 業務のIT化で人件費を2割減らせる予定です
- 研究開発によって2年後に新製品を出すことができるので、売上高は2倍になる予定です
- 土地を取得したのは新工場を建てるためです
ここまで説明されると「頼もしい会社」という印象を抱くことができます。これらの7項目が「事実」であることは会計によって裏付けられます。
上記の7項目すべてに会計処理がなされていて、それらは財務会計と管理会計に分類することができます。
2-2 財務会計を示すとステークホルダーは納得する
ステークホルダーを安心させるための会計のことを、財務会計といいます。財務会計には「ルールが厳しい」という特徴があります。
なぜ財務会計のルールを厳しくしているのかというと、比較をするためです。例えばいずれも自動車会社のA社とB社があったとします。
A社は「うちは売上高1兆円を誇り、これは業界1位です」という会計を公表したとします。
B社は「うちの利益は5,000億円で、これは業界1位です」という会計を発表したとします。
これでは、自動車株を買いたい投資家や、業績のよい会社に入社したい求職者や、将来性がある会社と取り引きしたい下請け部品メーカーなどのステークホルダーたちは、どちらの会社を選んだらいいのか迷います。それは知り得る会計の情報のルールが統一されていないからです。
そのため、ステークホルダーたちに示す財務会計には厳格なルールがあり、企業はそのルールに従って会計業務を行い、会計資料を提出しなければならないのです。
厳格なルールのことを会計基準といいます。そして会計資料には、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などがあります。
2-3 管理会計は経営陣が経営戦略を練るときに使う
一方の管理会計については、「経営陣が経営戦略に使う資料になる」と覚えておいてください。経営陣が経営戦略や事業計画をつくるとき、財務会計だけでは資料として十分ではありません。なぜなら財務会計は「1年間企業活動をしてきて、このような金額になりました」という結果報告の数字だからです。いわば過去の数字です。
経営戦略は未来に向けてつくるものなので、未来の数字も必要です。
再び「売上高1億5千万円、経費2億円」の企業の事例で解説します。この企業は、次のような経営戦略を打ち出していました。
- 1億円分の先行投資をした
- 先行投資の内訳は、業務のIT化費用1,000万円、研究開発費4,000万円、土地の取得費5,000万円だった
- 業務のIT化で人件費を2割減らせる予定
- 研究開発によって2年後に新製品を出すことができるので、売上高は2倍になる予定
- 土地を取得したのは新工場を建てるため
経営陣がこれだけの大きな決断をしたのは、「先行投資をすれば売上高、利益ともに増やすことができる」「この先行投資をしないとライバル企業に負けてしまう」と判断したからです。
ということは、この経営陣は次のような不安を抱えていたことになります。
- うちの会社は業務のIT化が遅れていて人件費がかかりすぎている
- 製品が陳腐化している、新製品が必要だ
- 新製品が完成して大ヒットしたらいまの工場だけでは生産が追いつかない
この3つ不安要素は、実は会計によって見つけることができます。
例えば自社の人件費とライバル会社の人件費を比べれば、人件費の不安が見える化します。
自社製品の販売を調べれば、販売不振が見える化します。
工場で使う原材料費と出荷額を調べれば、工場の生産性が見える化します。
見える化させるためには、それぞれに会計の手法を用います。その会計のことを管理会計と呼ぶのです。自社内を管理するための会計、という意味です。
管理会計は、ステークホルダーに開示する必要はありません。よって管理会計は、会社ごとに異なってかまいません。管理会計は経営者ごとに異なってもいいのです。
例えば先代の社長は「利益は最小限でよく、とにかく売り上げを拡大させて会社の規模を大きくする」と考えていましたが、後継の社長は「売り上げ拡大路線をあらため、しっかり利益を確保する」という目標を掲げたとします。
このとき先代の社長が求める管理会計と、後継社長が求める管理会計の内容は異なります。
つまり経営者は、管理会計について深く理解し、自分が求める会計を経理担当者に作成させなければならないのです。管理会計は経営戦略を練るための重要な資料なので、管理会計が不足していると誤った経営戦略をつくってしまうことになりかねません。
3 財務会計の意義
それでは財務会計の詳細についてみていきましょう。
財務会計には利害調整機能があります。誰の利害を調整するかというと、ステークホルダーたちの利害です。ステークホルダーたちは「その企業の経営の協力者」としては共通していますが、それぞれの立場によって利益の獲得方法が異なります。
例えば従業員は企業に対し「多くの給料がほしい」という要望を持っています。しかし多くの給料を支払うことは企業の利益を減らすことなので、株主は歓迎しません。なぜなら株主は企業に対し「配当金を増やしてほしい」と考えているからです。
従業員と株主は同じくステークホルダーでありながら、会社の利益の「取り合う」対立関係でもあるのです。
さらに、給料を増やしても配当金を増やしても利益が減るので、企業の債権者はどちらも歓迎しません。債権者の代表は、企業に多額の融資をしている金融機関です。金融機関は、給料も配当も増えると企業の財政基盤が弱くなると考えるので、経営者に人件費の圧縮や配当金の再検討などを求めます。
つまり従業員と株主と金融機関は、それぞれ利益の獲得方法が異なるので、対立してしまうのです。
ステークホルダーは企業が作成した財務会計の資料を読み込むことで、自分の利益の妥当性を確認できるのです。
財務会計には貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3種類があり、この3つを合わせて財務諸表といいます。
上場企業には、財務諸表を3カ月に1回(四半期ごとに)公表することが義務付けられています。そして1年に1回の決算日には、1年分の財務諸表を作成します。
3-1 貸借対照表とは
貸借対照表とは、企業の資産と負債と資本に注目した会計資料です。
企業にはヒト・モノ・カネ(お金)が必要ですが、資産はモノ・とお金のことです。つまり資産とは、企業が事業で使うものが計上されています。
企業は事業で使うお金の多くを外部から調達します。最も一般的なお金の調達方法は金融機関からの融資です。貸借対照表の負債には、お金をどのように調達したかが書かれてあります。
そして負債に似たものが資本です。「負債と資本が似ている」と聞くと、意外に感じるかもしれません。負債という言葉は「借金」を連想させ、ネガティブな印象です。一方の資本は、企業の「基礎的な資金源」というイメージがあり、ポジティブな印象です。
しかし負債も資本も、第三者からお金を調達する、という点では同じなのです。負債は、お金を受け取った後で利子をつけて返済しなければなりません。資本は、お金を受け取った後で配当金を支払わなければなりません。ただ資本は返済する必要はありません。
そして、資産と負債と資本は「資産=負債+資本」という関係があります。この数式は、当然といえば当然です。なぜなら企業は、負債や資本という形でお金を調達して、資産を確保して事業を行うからです。
ちなみに、資本は純資産とも呼ばれ、いまは純資産のほうが一般的なので、以下の解説では「純資産」を用います。
貸借対照表は決算日時点での資産、負債、純資産の額を示したものです。
貸借対照表は、左右にわかれた表になっています。左側に資産の額を並べ、右側に「負債+純資産」の額を並べます。そして左右は同額になり、計算式で表すと「資産=負債+純資産」となります。貸借対照表の概念図はこうなります。( )内は、それぞれの主な項目です。
資産 (預金、有価証券、売掛金、棚卸資産、固定資産など) |
負債 (借入金、買掛金など) |
純資産 (株主資本、利益剰余金など) |
会計の初心者向けのテキストでは、「現金などの資産は嬉しい財産」「借入金などの負債は悲しい財産」「株主資本などの純資産はお世話になっている財産」と説明されています。
負債と純資産には、「お金を調達する」という共通点があることは、先ほど紹介したとおりです。
負債は第三者からお金を借りる借入金だけでなく、購入したのにまだ支払いが済んでいない買掛金も含まれます。
純資産には、投資家(株主)などから運用を委託されるお金「株主資本」だけでなく、企業が稼ぎだした利益剰余金も含まれます。
企業経営に欠かせないお金は、負債と純資産という2つの調達方法でしか確保できません。
それに対し資産とは、調達したお金を使って運用・活動した姿といえます。棚卸資産も固定資産も、負債や純資産によって調達したお金で購入したものです。
資産に預金が入っていることに違和感を抱くかもしれません。預金と負債は相殺できるような気がします。しかし企業運営では、相当な額の手持ち現金が必要になります。つまりすぐに引き出せる預金もやはり企業活動に使うものなので、資産なのです。
貸借対照表の借入金をみれば会社の財政状況がわかりますし、売掛金や棚卸資産などからは会社の活動状況がわかります。
例えば借入金が大きく、なおかつ預金や有価証券の額が大きい企業は、調達したお金を有効活用していない、と推測できます。
では借入金は小さいほうがいいのかというと、そうでもありません。売掛金や固定資産が小さいと、ビジネス規模が小さい、と推測でき将来性に疑問符がつくかもしれません。
純資産のなかに利益剰余金という項目がありますが、これは「会社が利益を上げて調達したお金」のことです。つまり、資産が大きく、借入金が小さく、利益剰余金が大きい会社は「安定しているし将来性もある」と推測できるのです。
3-2 損益計算書とは
損益計算書は「企業の成績表」と呼ばれることがあります。「企業の成績」にはさまざまなものがあります。社会貢献やブランドイメージの浸透、行政とのパートナーシップなども、企業の成績といえるでしょう。
しかし最も重要な企業の成績は利益です。企業の利益を最大限大きくした経営者は、高く評価されます。それは利益の拡大こそが、すべてのステークホルダーが求めることだからです。
そこで損益計算書では、「いくら利益(または損失)が出たのか」と「どのようにして利益(または損失)が出たのか」がわかるようになっています。
利益を出す最も単純な計算式は「利益=売上高-経費」です。
損益計算書の理解を苦手とする人は「経費」が複雑に感じてしまうようです。実際の損益計算書をみても、利益も売上高も単純な表記ですが、経費だけは複数の項目が設けられているのです。
経費に複数の項目が設けられているのは、「それぞれの段階で企業の成績を評価していきましょう」という考えがあるからです。
例えば「成績のよい子供」といっても、国語ができる子もいれば体育が上手な子もいます。また総合点数が低い子供でも、数学だけ突出してよい成績を収めていれば、その子を「成績が悪い子供」とはいえません。
企業の成績も同じで、赤字(損失)を出しているけど粗利(売上総利益)が高い会社や、経常利益が小さいのに当期純利益が大きい会社などがあります。
つまり損益計算書が複雑な構造になっているのは、「成績の良し悪しを厳密に分析したい」という要望があるからなのです。
損益計算書の概念図は以下のとおりです。
成績 | 経費 | 計算式 |
---|---|---|
売上高 | ||
↓ | 売上原価 | |
売上総利益 | 売上総利益=売上高-売上原価 | |
↓ | 販売費、一般管理費、 減価償却費 |
|
営業利益 | 営業利益= 売上総利益-(販売費、一般管理費、減価償却費) |
|
↓ | 営業外収益、営業外費用 | |
経常利益 | 経常利益=営業利益-(営業外収益、営業外費用) | |
↓ | 特別利益、特別損失 | |
税引前当期純利益 | 税引前当期純利益=経常利益-(特別利益、特別損失) | |
↓ | 法人税、住民税、事業税 | |
当期純利益 | 当期純利益= 税引前当期純利益-(法人税、住民税、事業税) |
売上高から経費(売上原価、販売費、一般管理費、減価償却費、営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失、法人税、住民税、事業税)を次々差し引いて残った当期純利益です。
そして、経費を次々と差し引いていく途中で、売上総利益や営業利益、経常利益、税引前当期純利益などの「成績」がわかる仕組みになっています。
損益計算書は、売上高から経費を削りながら当期純利益を計算するための表といえます。損益計算書には、原則引き算出てこないので、かなり単純な構造をしているのです。
それではそれぞれの「成績」にどのような意味があるのかみていきましょう。いずれも金額(数字)が大きいほどよいとされています。
<売上高>が大きいということは、企業の商品やサービスが順調に売れていることを示しています。売上高が大きな会社は、販売している商品やサービスが多くの客に支持されている会社、といえます。
<売上総利益>は売上高から売上原価を差し引いたもので、粗利と呼ばれることがあります。売上原価は原材料費や製造コストで構成されます。
売上高総利益が大きい会社は、売上原価が小さいということなので、コストをかけずに商品やサービスを生み出すことができる「儲け体質」の企業といえます。
業界内で競争力のあるビジネスモデルを構築できた会社は、売上総利益が大きくなる傾向にあります。
<営業利益>は売上総利益から、販売費、一般管理費、減価償却費を差し引いたものです。いわゆる「本業の儲け」とはこの営業利益のことをさします。
その業界のトップクラスの企業は、営業利益が大きくなる傾向にあります。
売上総利益が大きい割に営業利益が小さい会社は、「せっかく儲かるビジネスをしているのに営業・販売コストがかかりすぎて利益が小さい会社」と推測することができます。
ちなみに人件費は、対象となる労働者の働き方によって売上原価に入ったり、一般管理費に入ったりします。工場労働者の人件費は売上原価に計上されます。製造コストと考えたほうが便利だからです。
一方で営業や販売や総務や経理などの労働者の人件費は、販売費や一般管理費に計上されます。
<経常利益>は営業利益から営業外収益を足し、営業外費用を引いたものです。営業外収益は利息などの収入のことで、営業外費用は借入金の利息などの支払いのことです。
「経常」とは「常に」という意味ですので、経常利益は「突発的な出来事」を除去した利益になります。
なぜ営業利益だけでなく、経常利益を算出する必要があるのかというと、営業利益だけでは「経営の上手・下手」がわからないからです。
営業利益は本業の儲けなので、この金額が大きいと「よい事業を展開している」と評価できます。しかし事業の仕方がよくても、経営の仕方がまずいと借入金が増えて営業外費用に利息の支払いが計上されるので、経常利益が下がります。
よって経常利益を算出することによって経営の評価をすることができるのです。
ちなみに借入金の利息は損益計算書に関わってきますが、借入金の元本も、そして元本の返済も損益計算書に関わってきません。仮に無利息で借金をすれば、それがいくら多額になっても損益計算書には反映されないのです。
大きな借金をしなければ企業運営ができない状態は、決して「褒められたことではない」のですが、それが「成績表」である損益計算書には反映されないのです。
そのために貸借対照表があるのです。借入金の大きさは、貸借対照表でわかります。会計が苦手な人は、とりあえず損益計算書の読み方だけ覚えて、貸借対照表の知識の獲得を後回しにしがちですが、実はそれでは本当の経営の姿はみえないのです。
経常利益まで算出できればその後は、経常利益から「特別利益、特別損失」を引いて<税引前当期純利益>を出し、さらにそこから「法人税、住民税、事業税」を引くと<当期純利益>が算出できます。
当期純利益の大きさは、企業の総合評価といえるでしょう。
3-3 キャッシュフロー計算書とは
キャッシュフロー計算書は損益計算書や貸借対照表に比べると、比較的新しい財務諸表です。以前は損益計算書や貸借対照表があれば企業の全容がみえると考えられていました。
しかし黒字倒産が多発するようになり、会計でもキャッシュを重視するようになったのです。黒字倒産とは、損益計算書上は黒字なのに、現金が不足して倒産してしまう現象です。例えば会計の帳簿上は利益を計上したもののまだ現金が入金されてなく、しかし現金の支払いが重なって手持ち資金が不足した場合、資金ショートに陥ります。これを繰り返すと、会計上は利益が出ていても会社は倒産してしまいます。
先ほど損益計算書は「会社の成績表」と解説しましたが、好成績を収めていても現金が足りないというだけで倒産してしまうことがあるのです。
つまり損益計算書だけでは「会社の健康状態」はわからないということです。それでキャッシュフロー計算書が重要になるのです。
キャッシュとは現金などのことで、貸借対照表の資産の現金などと大体一致します。つまりキャッシュフロー計算書は、現金という「貸借対照表のいち項目」にフォーカスを当てたものです。
貸借対照表にはほかにもたくさん項目があるのに、現金の会計であるキャッシュフロー計算書だけが、財務会計(財務諸表)の3本柱の1本になっています。企業経営における現金の重要性を理解できると思います。
キャッシュフローとは資金の流れのことで、キャッシュフロー計算書は現金の流入と流出の現象を表示したものです。
例えば企業の手元に1億円の現金があったとします。その1億円で土地を買い、それを1億2,000万円で売ったとします。この場合のキャッシュフロー計算書は「1億2,0000万円-1億円=2,000万円」と記載されます。
「お札には色がついていない」といいますが、企業の会計では「お金を種類分け」します。
キャッシュフロー計算書も同じで、現金を「営業用の現金」「投資用の現金」「財務用の現金」の3種類に分けて流れを追っています。
<営業キャッシュフロー>は営業で得た現金と仕入れや経費に使った現金の流れを追ったものです。営業キャッシュフローはプラスになることが理想とされています。「されている」とは、まれに、営業キャッシュフローがマイナスでも問題にならない例外的なケースがあるからです。
なぜ営業キャッシュフローがプラスのほうがよいかというと、使うお金より入ってくるお金のほうが大きいからです。営業キャッシュフローは家計に例えられます。毎月の給料より支出のほうが多い家計はいずれ破綻します。営業キャッシュフローのマイナス額が大きいと、「破綻するのではないか」という懸念が生じるのです。
<投資キャッシュフロー>は固定資産の購入や売却に使った現金の流れを追っています。固定資産とは設備投資や株や土地のことですで、固定資産を増やすことは未来への投資と考えられます。積極的に固定資産の購入のためにお金を使うことは企業活動としては「よいこと」と考えられます。ただ、未来への投資にはお金がかかるので、固定資産を買うほど投資キャッシュフローはマイナスになります。よって投資キャッシュフローがマイナスでも「問題なし」と
判断することができます。
<財務キャッシュフロー>は金融機関からの借入金や返済、配当金の支払い、社債の発行や償還に使った現金の流れを追っています。
財務キャッシュフローは、借入れを増やせばプラスになり、返済すればマイナスになります。よって財務キャッシュフローがマイナスになっている会社は「借金を順調に返している」と推測できます。
以上のことを整理すると、以下の状態の会社は、一般的に「よい状態にある」と評価できます。
<営業キャッシュフロー>プラス
<投資キャッシュフロー>マイナス
<財務キャッシュフロー>マイナス
そして「営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー」がプラスになると、「なおよい」会社と評価されます。なぜならこの状態の会社は、身の丈に合った営業を行いながら、しかも未来への投資もしっかり行い、投資の資金も潤沢ある、とみなすことができるからです。
お金の使い方で人の性格が推測できるように、キャッシュフロー計算書を確認することで会社の経営の性質がわかります。
3-4 3種類の財務諸表はつながっている
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3種類の財務諸表をみてきました。ここであらためて「難しい」と感じた方もいると思います。そのような方は、もう一度繰り返して読む前に、次のことを把握しておいたほうがいいでしょう。
「貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3種類の財務諸表はつながっている」
財務諸表の説明では、必ず3つの表が別々に解説されます(本稿も別々に解説しました)。しかしこの3つの表は実はつながっているのです。
- 損益計算書の当期純利益は、貸借対照表の純資産の利益剰余金とつながっている
- 貸借対照表の資産の現金及び預金と営業キャッシュフローの現金残高はつながっている
- 損益計算書の税引前当期純利益は営業キャッシュフローの税引前当期純利益とつながっている
のつながりを意識してもう一度、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の解説を読むと「だからこのように計算する」ということがわかります。
3つの表がつながっているのは偶然ではありません。なぜなら貸借対照表も損益計算書もキャッシュフロー計算書も、企業のお金とお金の流れに注目しているからです。つまり3つの表は同じものを違う角度でみたり、違う場所でみたりしているだけなのです。
例えば山のなかの湧水が小川に流れて大きな川に流れて海に流れて蒸発して雲になったとします。湧水と海の水と雲は、見た目はまったく異なりますが本質は同じH2Oです。
財務諸表も、同じお金を「企業の規模」や「企業の健全性」や「企業の稼ぐ力」や「企業が継続できる力」という異なる観点からみているにすぎないのです。
このことがわかると、財務諸表の読み込みが楽しくなるはずです。
4 管理会計の意義
管理会計は経営者が経営戦略をつくるときなどに使う内部資料的な存在です。外部に公表する必要はありません。管理会計は任意の会計ということもできます。
そのため、各企業は自由に管理会計を実施することができます。
しかし管理会計の今日的な意義は、スピード経営に貢献することにあります。「自由に実施できる」からこそ、管理会計はスピード経営にマッチするようにデザインされなければならないのです。
例えばある企業が5部門で構成されていたとします。このとき各部門で会計をつけることで部門ごとの経営状況がわかります。大手企業が本部制やカンパニー制を導入する動きがありますが、これは部門をひとつの会社のようにみなして、会計をつけさせているのです。こうすることで各部門の長があたかも社長のように売上高とコストと経費と利益に責任を持つようになります。管理会計は企業運営と連動しているのです。
また、メーカーが工場、倉庫、販売、営業ごとに会計をつけさせれば、どの過程が最も効率的に稼げているかがわかります。また、企業内のどのセクションがボトルネックになっているかも、管理会計をつけることで判明します。管理会計をつけると、改善の芽が生えてくるわけです。
管理会計にはさまざまな種類がありますが、ここでは多くの企業が管理会計で採用している「原価計算」と「損益分岐点」について解説します。
4-1 原価計算とは
メーカーにとって原価を下げることは至上命題になっています。しかも昨今は消費者の商品・サービス感度が高まっているので、企業は品質を落とさず原価を下げることが求められています。したがってどのメーカーも、原価計算には力を入れています。
原価計算とは、商品をつくるときにかかった費用を計算する会計です。商品をつくる費用は、(1)原材料、(2)労務費、(3)その他経費の3項目で構成されます。
このとおり原価計算は単純な構造なのですが、会計実務ではかなり複雑な作業が必要になります。
商品を製造するには時間がかかります。しかも工場で商品を大量生産する場合、製造が連続的に継続します。ということは、例えばたったいま完成した商品の原価(費用)の一部は、2カ月前に支払っている、といった現象も起きるわけです。
また、機械で商品を製造すると機械の購入費も原価に組み入れなければなりません。例えば機械の値段が1億円だった場合、その1億円の経費を商品ひとつ1つにどのように配分するのかという問題も生じます。さらに機械の費用は減価償却するので、ある日を境に経費でなくなるのです。つまり機械の減価償却が終わると、原価が安くなるのです。
原価計算を正確に行おうとすると、企業活動をつぶさに追っていく必要があります。そこで多くの企業では原価計算をひと月単位で計算したり年単位で計算したりします。こうすることで一時的な原価の向上(または低下)なのか、原価が上昇基調(下落基調)にあるのかがわかります。
原価計算が「大変」なのはメーカーだけではありません。例えばステーキ店でも、原価計算は単純にはいきません。10kgの牛肉を70,000円で仕入れ、1人前200gのステーキで客に提供したとします。このとき200gのステーキの原価は1,400円(=(70,000円÷10kg)×200g)とはなりません。なぜならステーキ店は、仕入れた肉から余計な脂身を取り除くからです。また200gずつ切り分けたときに最後に30gだけ残ったらこれも廃棄するしかありません。
10kgの牛肉を仕入れたものの、脂身などを取り除いたら8kgになってしまったとします。すると200gのステーキの原価は1,750円(=(70,000円÷8kg)×200g)となります。
これだけ厳格に原価計算しないと、経営判断には使えません。
原価計算は大変な作業ですが、しかし一度原価計算のフォーマットをつくってしまえば、経営者は原価をコントロールすることができます。消費者が「質より低価格」を求めたら、原材料の品質を落として原価を下げ、売価を安く設定することができます。その後消費マインドが「高級志向」に向かったら、高品質の材料を使ってプレミアム商品をつくればよいのです。
厳格な原価計算をせずに経験と勘で原材料の品質や原価を調整をすると、品質を落としたのに安く売ったら赤字になった、といったことになりかねません。
4-2 損益分岐点とは
損益分岐点は、利益が0円になる「点」のことです。利益は売上高から費用を差し引いたもので、計算式は「利益=売上高-費用」となります。
利益が0円になるということは「売上高=費用」になります。この状態のことを「損益分岐点に達した」といいます。
費用のなかには原材料費や生産コストや活動経費や従業員の人件費なども含まれるので、「ちょうど損益分岐点の経営」をしていれば会社は継続できます。
ただそれでは「危ない経営」なので、経営者は常に損益分岐点を超える経営、すなわち利益を出す経営をしなければなりません。
しかし経済状況は刻一刻と代わり、ときに2008年のリーマンショックのような世界危機が起きます。そのような経済状況下では、経営者は無難にやりすごす必要があります。そのときは損益分岐点ぎりぎりの経営で「よしとする」判断も重要になってくるのです。
したがって損益分岐点も経営判断には欠かせない会計処理となります。
損益分岐点を把握するには、固定費と変動費について知っておく必要があります。
固定費とは売上高が上がっても下がっても変わらない費用のことです。工場や社屋の家賃、人件費、借入金の支払利息などが固定費に入ります。
変動費は売上高が上がれば上がり、下がれば下がる費用です。原材料費、加工費、燃料費などが変動費になります。
損益分岐点と固定費、変動費の関係は次の数式で表すことができます。
損益分岐点=固定費÷(1-(変動費÷売上高))
ある企業では、固定費が年5,000万円、変動費が年3,000万円、製品価格が10万円だったとします。損益分岐点をゼロ(利益0円)にすると次の計算式になります。
・0=5,000万円(1-(3,000万円÷売上高))
↓
・売上高=3,000万円
つまりこの会社は年3,000万円を売り上げないと損益分岐点(利益ゼロ円)に達しません。したがって10万円の製品を年間300個(=3,000万円÷10万円)販売しないと赤字になるわけです。
経営者が損益分岐点を把握していると、絶対に死守しなければならない販売目標が明確になります。
経営者としては損益分岐点を引き下げると、経営が楽になります。損益分岐点とは、ハードルの高さのようなものだからです。損益分岐点を引き下げるには、固定費を下げる必要があります。ただ変動費を引き下げると売上高まで落ちてしまいます。
5 まとめ
企業の経営者のなかには、本業には力を入れるが会計には疎い、という方がいます。また起業を目指している個人事業主のなかには、とにかく本業で稼いで、会計は担当社員に任せようとしている方がいます。
企業や事業が急成長している段階はそのような思考でも問題ないでしょう。利益のスタートは売上高なので、まずは本業を軌道にのせて売上高を確保する必要があるからです。
しかし事業を継続しようと考えるなら、「利益は売上高についてくる」という考えをあらためる必要があります。これまでみてきたように、利益は売上高だけでできていないからです。売上高以外の要因も、売上高と同じくらい利益にインパクトを与えるのです。
企業経営者の個人事業主も、なるべく早い段階で会計の知識を身につけておくことをおすすめします。会計資料を読むスキルは、経営の強力な武器になるからです。