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  <    <  会社設立時からも考えたいリスキリングの導入・活用の方法とは

会社設立時からも考えたいリスキリングの導入・活用の方法とは

岸田首相が2022年秋の臨時国会の所信表明演説で「リスキリング(業務上等の知識やスキルの再取得・再教育)」への支援を表明したことで、リスキリングがあらためて注目されるようになりました。

 

企業等での教育訓練や能力開発は、事業を支える社員を育成する重要な施策ですが、その手段の1つとしてリスキリングが重視され始めたのです。

 

今回の記事では、リスキリングの特徴や必要性企業や社員にとってのメリット・デメリットのほか、リスキリングの活用事例、導入する場合のポイント個人がリスキリングをもとに会社設立する場合の進め方などを説明していきます。

 

課題解決のためにリスキリングを活用したい経営者や、リスキリングで得た技術等を将来の独立に役立てたい個人の方は、参考にしてみてください。

 

 

1 リスキリングの概要と活用状況

リスキリングの概要と活用状況

 

リスキリング(re-skilling)とは、簡単に表現すると「働き手の新たな知識・スキルの取得や再教育を行う取組」です。

 

経済産業省の資料ではリスキリングのことを「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と示しています。

 

リスキリングという言葉が注目されるようになったのは、2020年に開催された世界経済フォーラム年次会議(ダボス会議)です。この会議のテーマの1つである「社会と仕事の未来」に関連して「リスキル革命」が発表されました。

 

「リスキリング革命」では、第4次産業革命によって起こる技術の変化に適応できる新たなスキルを獲得するために、2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供することが必要だと提唱しています。つまり、世界で10億人のリスキリングが必要だと言っているわけです。

 

近年のビジネスにおいては、AIやIotなどデジタル技術を活用してイノベーションを実現するといったDXが推進されており、ビジネスのあり方が大きく変化してきました。

 

それに伴い労働者が学生時代や入社以降に身につけた知識やスキルだけでは新たな業務に対応するのが困難になってきており、リスキリングが必要となってきたのです。

 

 

1-1 リスキリングの能力開発としての捉え方

リスキリングは、企業側にとっては「従業員に新しい知識・スキルを身につけてもらう」ことになるため、従来の「教育訓練」や「能力開発」などの一部と言えるでしょう。

 

教育訓練等には階層別、個人単位・集団単位、など様々な方法や形態がありますが、実施形態としは、OJT、Off-JT、自己啓発が代表的です。これらに加えて最近ではリカレント教育やリスキリングが重視されるようになってきました。

 

ここではこれらの内容や違いを簡単に説明しましょう。

 

教育訓練の実施形態について

 

1)OJT

OJTはOn the Job Trainingの頭文字をとった略語で、会社の職場の上司・先輩等が、部下や後輩に実際の仕事を通じて指導し、知識や技術などを習得させる教育方法のことです。

 

研修やマニュアルなどで学習した知識やスキルを実際の業務でそれら使って仕事を進めるという体験ができるため、習得効果が高い教育方法であるとOJTは評価されています。新入社員などを早期に戦力化できるため、OJTは多くの企業で採用されているのです。

 

OJTは、現在その企業で行われている「通常の業務」や「既存のスキル」等が主な対象となりますが、リスキリングは「これまでと異なる業務」や「新たな技術・スキル」などが対象となるという点で異なります。

 

2)Off-JT

Off-JTはOff The Job Trainingの頭文字をとった略語です。OFF-JTでは職場以外で実施される研修などで、業務に関連するトレーニング等を社員に受けさせる教育方法になります。

 

外部の研修機関が提供する講座などに社員を参加させ、知識やスキルを習得させるケースが一般的です。そのため、トレーナーは専門の講師やスタッフが担当しており、体系的かつ専門性の高い知識などが身につけられます。

 

Off-JTとリスキリングとの関係は、教育の対象が現在の業務か今後必要となる業務であるかなどの違いで異なってくるでしょう。リスキリングでも外部の研修機関などで新たな知識やスキルを学習するなら、それはOff-JTの1つと言えます。

 

既存の業務に関連する内容ならそれは従来のOff-JTであり、通常の能力開発になるでしょう。

 

3)自己啓発

自己啓発とは、社員が自分の意志で能力開発を行うことです。その開発対象は、業務に関することのほか、個人が興味を持っている別の業務や業種に関連することなども含まれます。

 

自己啓発の手段としては、外部の教育機関や学校等への通学、通信講座の受講、各種の資格等の取得、セミナー・勉強会などへの参加、専門書等での学習、などです。

 

そのため、自己啓発は社員が自ら取り組む能力開発であり、基本的に業務や会社の命令で行うものではありません。しかし、リスキリングを企業が社員に対して行う場合、それは業務命令として行われることになります。そのため、社員が企業からリスキリングを指示されればそれに応じる義務が生じるのです。

 

一方、自己啓発は社員本人の意志で行うものであるため、会社がそれを強要したり、学習対象を指定したりすることはありません(奨励することはある)。

 

4)リカレント教育

リカレント教育は、一般的には会社に勤務した後一度仕事を離れ、大学などで教育を受け直してからまた仕事に戻るといった循環を伴う学習スタイルを指すことが多いです。

 

そのため、リカレント教育は「働く→学ぶ→働く」のサイクル(仕事と学習の繰り返し)のあるタイプで、新しいことを学ぶために休職などで一旦「仕事を離れる」(必ずしも休職等をしない)ケースが多く見られます。

 

なお、リカレント教育は、これまで社員の個人の意志で実施されるケースが多く、基本的に企業の命令・指示で実施される教育方法とは異なるものでした。一方、リスキリングの場合、基本的に勤務しながら新しい知識やスキルを学習する形態であり企業側が主体となって提供する教育方法です。

 

リカレント教育でも新しい知識や技術などを学ぶことも含まれますが、社員個人が主体となって行う点がリスキリングと異なります。なお、最近ではリカレント教育でも修学や復職等に関する起業側の支援が見られるようになってきました。

 

1-2 リスキングの利用状況

海外と国内におけるリスキリングの利用状況を紹介しましょう。

 

1)米国の状況

先の経済産業省の資料では以下のような内容が紹介されています。

 

(1)AT&T

エーティーアンドティー

(引用:AT&T公式HP)

 

AT&T社は2008年時点で「25万人の従業員のうち、未来の事業に必要なスキルを持つ人は半数に過ぎず、約10万人は10年後には存在しないであろうハードウェア関連の仕事のスキルしか持っていない」と認識していました。

 

そして、その認識のもと、同社は2013年に「ワークフォース2020」というリスキリングのイニシアティブを開始し、2020年までに10億ドルを費やして10万人のリスキリングに取り組むことにしたのです。

 

その結果、現在では社内技術職の80%以上が社内異動によって充足されるようになっています。また、リスキリングプログラムに参加する社員は、非不参加の社員に比べ、1.1倍高い評価、1.3倍多い表彰、1.7倍の昇進を実現しており、離職率は1.6倍と低いです。

 

(2)Amazon

Amazon

(引用:Amazon公式HP)

 

アマゾン社は2025年までに米アマゾンの従業員10万人について、一人当たりの投資額約75万円をかけて、リスキリングすると発表しています。非技術系の従業員を技術職に移行させる「アマゾン・テクニカル・アカデミー」、IT系エンジニアがAI等の高度スキルを獲得するための「マシン・ラーニング・ユニバーシティ」などのトレーニングプログラムの実施が決定されました。

 

(3)ウォルマート

ウォルマート

(引用:ウォルマート公式HP)

 

ウォルマート社は、VRを用いたトレーニングを開発しました。例えば、店舗にいながら、「ブラックフライデー」などの大規模セールや、災害対応などの疑似経験ができるプログラムです。

 

また、eコマース対応用の機械「ピックアップタワー(コロナ禍での対応策であったため現在は廃止へ)」の操作をバーチャルに学習するなど「小売りのDX」に対応できるスキル習得の機会を店舗従業員に提供しました。

 

(4)トランプ政権の政府主導・企業巻き込み型のリスキリング・イニシアチブ

 

トランプ政権時において、政府が主導して米国企業430社が参加するリスキリング・イニシアチブが立ち上げられ、1600万人分のリスキリング機会の提供が誓約されています。

 

2)日本の状況

●企業のリスキリングに対する認知度と取組状況

 

HR総研(ProFuture株式会社)と産業能率大学総合研究所が共同で実施した「日本の企業・組織におけるリスキリング実態調査」によると、以下のような結果が報告されています。

 

(1)「リスキリング」の認知度

 

「リスキリング」という言葉の認知ついては、「知っている」との回答が36.0%であり、リスキリングは、まだ多くの人に知られているとは言えない状況です。

 

(2)リスキリングへの取組

 

リスキリングに「すでに取り組んでいる」企業の回答は11.5%でした。その他の回答内容は以下の通りです。

 

  • 「今後取り組む予定がある」 5.5%
  • 「取り組むことを検討中である」 28.0%
  • 「現在取り組んでおらず、取り組む予定も今はない」 32.5%

 

リスキリングに取り組んでいる企業は約1割とわずかな状況ですが、取り組む予定と検討中の回答を合わせると約半数がリスキリングに対して積極的と言えます。政府の支援策(補助金等)やDX等への取組の状況次第ではリスキリングの浸透が深まる可能性は小さくありません。

 

(3)リスキリングを実施する目的

 

リスキリングに既に取り組んでいる、または取組を予定・検討している方を対象にリスキリングの実施目的について質問した結果、「業務の効率化による生産性向上」が6割と最多でした。

 

次いで、「現在のビジネスモデルの根本的な変革」と「新規製品・サービスの創出」が5割強となっており、事業基盤に大きく影響する内容を目的に、リスキリングに取り組もうとする点が確認できます。企業の発展や事業の成長を導く戦略を遂行するための社員の能力開発としてリスキリングを活用しようとする姿勢が読み取れるでしょう。

 

●連携型リスキリング

 

日本では企業、政府、教育機関などが有機的に協働する「連携型リスキリング」の必要性が叫ばれ、「日本リスキリングコンソーシアム」が2022年6月16日に発足し、リスキリングの推進が強化されました。

 

同団体は、国や自治体、企業などの49団体により、人々のリスキリング(学び直し)の機会を増大させることを目的としてスタートし、200を超えるトレーニングプログラム(現在700以上)と就業支援サービスを提供するWebサイトが同日に開設されており、2026年までに50万人の利用を目指すとしていたのです。

 

トレーニングプログラムの内容は、クラウドやAI、マーケティング、データ分析、デザイン、など多岐にわたり、そのプログラムは226あり、そのうち186は無料、40は有料になっていました(当時)。

 

同コンソーシアムへの参画団体はトレーニングプログラムを提供する「リスキリングパートナー」、プログラムを受講した希望者へ就業支援をする「ジョブマッチングパートナー」、同コンソーシアムへ協力・後援する省庁と、周知や活用促進を後援する団体があり、グーグル社が主幹事となっています。

 

 

2 リスキリングのメリット・デメリット

リスキリングのメリット・デメリット

 

リスキリングに取り組むことで、企業と社員にどのようなメリット・デメリットが生じるのかを説明しましょう。

 

2-1 企業にとってのリスキリング

リスキリングに取り組むことで、企業に生じるメリット・デメリットを紹介します。

 

1)メリット

リスキリングのメリット

 

●採用コストの削減

 

今後の業務に新たに必要となる知識やスキル等を社員に習得させれば、社外から知識等を有する人材を採用する必要がなくなり(あるいは少なく済み)、その採用コストの削減が可能です。

 

DXなどデジタル技術を活用した新たな業務プロセスの導入が必要される今後の企業経営ではその実現に必要な人材を確保することが重要になりますが、その採用活動は困難でありコストも多くかかります。

 

リスキリングで自社の社員を新たな業務等に対応できる人材へと育成できれば、人材確保に伴う課題を解消あるいは低減することが可能です。

 

●社員のモチベーションアップやキャリア形成

 

会社の教育訓練等は、一般的に社員の労働意欲を高める効果があり、リスキリングにおいてもそれが期待できます。特に今後の会社の発展や成長の重要な要素となる新技術等を習得できる機会が提供されることは、自身のキャリア形成にも有効です。

 

リスキリングによって会社の今後の核となるような事業や業務に関する職能が得られれば、その分野への異動が容易になり、個人が望むキャリア形成が実現しやすくなります。

 

また、そうした新たな知識等の習得は、外部労働市場(社外)における自身の価値を高めることにも繋がるため、個人の今後の可能性を広げます。こうした理由から会社からのリスキリングの提供は社員のモチベーションアップに繋がり貢献意欲を高めるため、企業にとっても有効です。

 

●生産性の向上

 

リスキリングにより新たな知識等を習得した社員により、新たな業務プロセスを導入できれば、業務の効率化が進み生産性は向上できます。

 

これまでの作業(組立・入力・監視・確認・計算・伝達等)がリスキリングによる知識等で改革されると、作業時間の大幅な短縮や労力の削減などが可能となり、生産性が大幅に改善されることとなるのです。

 

作業時間の短縮や作業負担の低減は労働者の労務負担を軽減し、労働意欲の向上にも繋がるため、一層の生産性の向上も期待できます。

 

●新たな発想や事業の創出

 

リスキリングによる知識等の習得により、それが新たなビジネスアイデアや新事業の創出を促すことも可能です。

 

事業に関するアイデアや、それをビジネス化するビジネスモデルの構築には、それに関する知識や経験などがキーになります。つまり、新たなビジネスを生み出すにはそれに関連する知識が重要なファクターになるわけです。

 

リスキリングはその知識等を得るための重要な機会であり、その結果が新事業の創出にも繋がります。

 

2)デメリット

リスキリングのデメリット

 

●教育費用と導入の負担

 

企業がリスキリングを実施していくには費用や時間が必要となり、それは会社にとっての負担になります。

 

リスキリングをどのように実施するかによって、会社の負担の程度も変わってきますが、高度な知識や技術などを習得させる場合、教育費用は高額になり、習得までの時間も多くならざるを得ません。

 

費用に関しては国や自治体などの補助金等を利用することで軽減することも可能ですが、習得までの長時間は会社の業務に支障をきたすことになり得ます。また、仕事と学習を同時に行う場合はその本人への負担が重くなり健康上の問題を誘発させることにもなりかねません。

 

リスキリングのための休職や労働時間の削減といった配慮も必要になりますが、それも会社にとっての負担になります。

 

●社員のモチベーション管理

 

リスキリングに従事することに意義を見出せなかったり、スキル等の習得に不安が生じたりすると、その社員のモチベーションが低下し、業務に影響を及ぼしかねないため会社側のモチベーション管理が重要です。

 

新た知識等を学べる機会は魅力的に映ることも多いですが、忙しい業務の中でそれに直接的に関係の薄い知識や技術を習得することに抵抗感を覚える人は少なくありません。

 

そうした社員にリスキリングの意義を認識させずに取り組ませるとモチベーションが低下することも多いです。また、新たなスキルの習得が思うように進まない場合などもモチベーションを低下させ既存の業務に影響しかねません。

 

●スキル取得後の離職リスク

 

リスキリングによって新たな知識等を獲得した社員は、外部労働市場における価値を高めたり、自ら新ビジネスを構想したりすることが容易となり、自身の可能性を広げることになります。そのためその社員は会社を退職して別の道を模索する可能性が高くなるのです。

 

会社が時間と費用をかけてリスキリングの機会を提供した社員がその後直ぐに会社を去るようでは提供した意味がなく、新たな事業や業務プロセスの実行にも支障をきたすことになりかねません。

 

リスキリングを提供した社員を会社に縛ることはできないですが、彼らがその会社に勤務することに魅力を感じ長期に渡って会社に貢献したいと思えるように取り組むことが求められます。

 

2-2 社員にとってのリスキリング

社員にも以下のようなメリット・デメリットがあります。

 

1)メリット

社員にとってのリスキリングのメリット

 

●キャリアアップや自己実現の達成

 

社員が会社に勤務する場合、どのような職種や職務、役職などにつくか、という職歴を考えますが、リスキリングで得た新たな能力の取得はその可能性を広げます。

 

自社にとって今後重要となる事業や業務に欠かせない知識等を習得することは社員のキャリア形成を図る上で有利な要素となり、その実現に有効です。つまり、その社員は自分が思い描くキャリアを積みやすくなります。

 

また、そうしたキャリアを積むことで、「将来、自分はこうなりたい」「何年後にこんな業務に従事したい」というような希望を叶える可能性が高くなるわけです。

 

●エンプロイアビリティの向上と転職の容易化

 

DX等の知識や技術をリスキリングで習得した人材は、社内だけでなく他の会社でも必要とされる働き手となるため、高いエンプロイアビリティ(外部労働市場で評価され雇用される能力)を保有することが可能です。つまり、転職などが容易になります。

 

自分のしたい仕事や収入の高い職務に就くためには、転職することが手っ取り早い方法となりますが、リスキリングでエンプロイアビリティを高めることができれば、それが容易になります。

 

●収入の向上

 

上記のようなキャリアアップや転職などが実現できれば、給料の高い仕事につけたり、役職についたりすることも容易となるため、結果として大幅な年収UPも夢ではありません。特に転職したり、自分で独立したりして、年収を大きく増やすことが期待できます。

 

●起業や会社設立による創業

 

リスキリングによる新たな知識等の獲得は、新たなビジネスアイデアを生み、本人による創業に繋がる可能性も高いです。もちろんアイデアをモデル化して事業の仕組を整えるための知識や資源なども必要ですが、新たな業務や職務で高度な知識やスキル等を磨きながら経営知識等も蓄えて行けば起業は困難ではありません。

 

2)デメリット

社員にとってのリスキリングのデメリット

 

●会社の期待からのプレッシャー

 

リスキリングにより新たな技術の習得を会社は社員に求めるため、時にそれが社員の重荷になることがあります。高度な知識の活用が期待されることも多いですが、その期待に応えられないと評価が下がるのではないか、というような不安に押しつぶされる可能性もないとは言えません。

 

そうしたプレッシャーが技術等の習得の妨げになるだけでなく、既存の業務遂行に悪影響を及ぼすこともあります。

 

●プライベートな時間への影響

 

新たな知識等の習得にあたり、就業時間以外のプライベートな時間を勉強時間にあてるケースは多いです。つまり、リスキリングにより自身のプライベートな時間の一部が奪われることになります。

 

自己啓発などでも同様の時間の束縛は起こり得ますが、会社の命令によるリスキリングでプライベートな時間が大幅に割かれることになれば、本人のみならずその家族での影響も大きいです。過度の負担となるようなリスキリングには事前の適正な学習計画が求められます。

 

●既存業務への悪影響

 

リスキリングでの学習で既存業務の時間が多く割かれる場合、業務に穴が開き、業務効率の低下やトラブルが生じないとも限りません。もし起こった場合、その社員のみならず、部門全体での大きな問題になり、リスキリングの中断に追い込まれることもあり得ます。

 

 

3 企業のリスキリングの導入・活用の事例

企業のリスキリングの導入・活用の事例

 

企業がリスキリングにどのように取り組んでいるか、その取組内容を紹介しましょう。

 

3-1 キヤノンの人材戦略

キヤノン社は、2021年に中長期経営計画「グローバル優良企業グループ構想フェーズVI」を開始し、その主要戦略の1として、「より競争原理の働く人事体制の構築」を掲げ、新たな人事制度の構築と組織文化の変革を進めるとして、積極的な人材育成を推進しています。

 

具体的には、研修施設「CIST」の設立によるデジタル関連教育の拡充、成長性の高い事業領域に人的リソースを移すための、研修と社内公募を合体させた「研修型キャリアマッチング制度」の導入、などを進め幅広い人材のリスキリング(職業の能力の再開発・再教育)と社内転職が推進されているのです。

 

以上を実施するため、以下の施策が行われています。

 

・適材適所の人材配置

 

同社は、戦略的な要員配置と社員に対する積極的なキャリア形成の支援に取り組んでおり、そのための適材適所が進められているのです。

 

例えば、採用活動では専門知識や本人の意向に基づき、配属先を入社前に決めるジョブマッチング型の採用の拡大が進められています。また、入社3年の社員には、人事部門が仕事や職場との適応状況を確認する面談も実施されているのです。

 

・研修型キャリアマッチング制度

 

この制度では、3カ月から6カ月の研修を受けることで、実務に必要な知識を習得した上で新しい部署への社内転職ができるようになっています。学び直しの機会を提供し、社員が未経験の仕事にもチャレンジできる仕組が作られているわけです。

 

・新しい事業ポートフォリオに沿った人材育成:ソフトウエア教育

 

同社では、新しい事業ポートフォリオへの転換などを支える人材の育成のため、AIやIoTなどに関するDX教育(そのエキスパートの育成等)に力を注いでいます。

 

⇒以上の内容からキャノン社が、同社の経営戦略に基づく人事戦略を考案し、その実現のために他の施策とともリスキリングを活用していることが確認できるでしょう。

 

3-2 キリンの「キリンDX道場」

キリンホールディングス株式会社ではDX人材育成プログラムとして「キリンDX道場」を2021年7月から開校しました。同道場は、DX人材の育成に向けたデジタルリテラシーやそのスキル向上を目的としています。

 

・同社の経営課題

 

同グループは、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」の達成に向けて「価値創造を加速するICT」の実現を目指し、AIを活用した生産現場での効率化のほか、様々な取組を行っています。しかし、デジタルスキルが特定のデジタル・ICT部門に偏り、営業・生産・物流などの現場社員に定着していないという問題がありました。

 

・課題解決のためのDX道場

 

このDX道場は、キリングループ内で作成したオリジナルカリキュラムで、デジタルスキルを主体的に学び、身に着け、実務での課題解決・価値創造に繋げることを目的として開設されています。

 

DX道場は、現場の課題解決に役立つデジタル活用が可能な人材の増加や、今までの業務プロセスの迅速な変革、などをもたらす手段として期待されているのです。

 

・DX道場の具体的な内容

 

DX道場でのコースはレベル別に「白帯」「黒帯」「師範」の3段階で設定され、受講者は「白帯」を取得した後に上位レベルの受講が可能です。各コースは、オンラインライブ講座を2~3講座受講の後、認定試験を受け、合格すれば完了となります。

 

講義内容は外部デジタルトレンドに合わせて定期的に更新され、受講者が継続的にDX道場を受講できるように工夫されているため、デジタルスキルの定着が図りやすいです。

 

⇒最初の募集では150人のDX人材育成を計画していたところ、応募総数は750人を超え、想定の5倍以上となりました。同DX道場は、今後も継続的に開催して募集を行い、2024年までにノーコードアプリやBIツールなどのデジタルテクノジーを活用した、業務プロセスの変革による生産性向上・新たな価値創造を推進できるDX人材を合計1,500人まで拡大するとされています。

 

3-3 「学び・学び直しに取り組む企業事例」

厚生労働省の「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」から「学び・学び直しに取り組む企業事例」を取り上げ、その実施ポイントを説明しましょう。

 

1)「労働者の学び・学び直しに関する金銭的な支援を実施」(F社事例)

●人材開発の基本的な考え方

 

・経営者層は、経営課題として若手・中堅社員の定着や人材開発を重視し、社員へのきめ細かいキャリア支援や人材開発が実施されている

 

・2021年4月に、人材開発やデジタル化の重要性を考慮し、これまでの管理本部・総務課等がコーポレート部門・人財DX室等に再編された

 

・毎年策定の経営計画方針書の中で、社員が職務に必要な資格を取得した場合にインセンティブを付与することが明記されている

 

⇒こうした人材開発に注力したことで、学び・学び直しに積極的な社員が増え、資格取得に向けて社員同士で勉強会を開催する例が増えています。また、資格手当の支給総額も以前より増加しており、社員が学び・学び直しに積極的に取り組み、「新しいものを取り入れてチャレンジする」といった雰囲気や共通認識が組織全体に形成されるようになりました。

 

●資格を取得した場合の手当の支給

 

社内規則において、資格手当(恒久)や資格取得祝金(一時金)の支給と、その対象となる資格が規定され、資格手当は合計71種の資格について、難易度等に応じて金額が設定されています。

 

●キャリアコンサルタントによるキャリアの棚卸しと伴走的支援

 

キャリアコンサルタントの資格を有する同社の社員が、各社員に対して、何の資格を取得したらよいか、何を学習したらよいか、などの点を含めキャリア形成や学びの視点も含めた個別の相談を行っています。

 

⇒本人の現状におけるスキルやキャリアを確認し、今後の会社の事業で必要となる、活用が期待される分野の資格などを本人の希望を踏まえて助言や支援する取組が企業には求められます。

 

2)「学び・学び直し後、希望する分野への異動を可能とする制度を導入」(G社事例)

●人材開発の基本的な考え方

 

同社では、「社員教育→担当者のスキル向上→顧客満足度の向上→売上増→その結果、社員の所得アップへ」という考え方のもと、非正規雇用労働者等も含めた人材開発に労使が協力して取り組んでいます。

 

●人材開発方針の提示と社員への浸透

 

毎年、詳細な人事方針・施策等が決定されており、各事業会社で決定した人事方針等は、様々な会議体や社内LANを活用した発信、職制(現場のリーダーからの発信)を通じて社員への浸透が図られています。

 

●学ぶべき知識やスキルの一覧化と教育訓練プログラムの提供

 

各店舗や各担当部門で学習しなければならない専門知識やスキルが一覧化され、提供している教育訓練プログラムや金銭的支援策等を掲載した社員向けの「教育冊子」が、社員に呈示されています。

 

教育訓練では、OJTとOFF-JTを組み合わせたプログラムや、担当職務と異なる分野の知識を社内のイントラネットで習得できるプログラムなどが提供されているのです。

 

●学び・学び直し後、希望する分野への異動が可能な制度の導入

 

社員が現業と異なる分野の学習に取り組んだ場合、その分野で働くことが可能な制度があります。また、入社3年目以上の希望する社員が、現職に関係なく将来就きたい分野に関連する教育訓練を社内のビジネススクールで受けることが可能です。

 

ビジネススクール修了後、原則として3年以内に学んだ分野に関係する部署への異動が認められています。

 

●社員の学び・学び直しを促進するための支援策と評価

 

・会社として推奨している社外の教育訓練プログラム・資格を受講・取得した場合、講習受講料や受験料の一部は会社が負担する

 

・時給制の社員に対する社内試験制度があり、合格した場合、時給単価の引上げや手当の支給といった処遇が適用される

 

⇒社員の学習を促すには金銭的な支援も重要です。また、学習した結果や資格などの成果を適切に評価し処遇に反映させることで労働意欲や忠誠心を高め業績アップや困難な業務への挑戦などに繋げられます。

 

 

4 リスキリングを企業が導入する場合のポイント

リスキリングを企業が導入する場合のポイント

 

企業がリスキリングを導入し経営に活用していく場合の重要ポイントを説明しましょう。

 

4-1 経営者のリスキリングに対する理解

リスキリングは社員教育や能力開発の一部であることから、人材戦略の一環として実施される必要があります。つまり、人材戦略の上位である経営戦略を実現するために必要な施策であるという認識が経営者には欠かせません。

 

企業経営では、その会社の理念・使命を実現するために事業目標および戦略を立案し実行することが求められます。戦略を実行していくためには、組織や事業を行うための経営資源である金・人・モノ(建物・設備・材料等)・情報(知識、ノウハウ、技術、各種データ等)が不可欠です。

 

人材は事業を遂行するために必要な資源であり、企業の「情報」となる知識・ノウハウ・技術等を保有し生み出す存在でもあります。そのため自社の戦略を遂行していくには、それに必要な「情報」を有し生み出せる人材が不可欠であり、計画に合わせた必要人員を確保しなければなりません。

 

戦略に基づき、いつ、どれだけの人数の、どのような知識・ノウハウ・技術など保有する者を確保するかを決定するのが、人材戦略と人材計画になります。そして、その人材戦略の能力開発の1つの手段としてリスキリングの導入・活用が注目されているのです。

 

そのため、リスキリングは経営戦略に対応した内容で構成・運用される必要があります。どのような教育手段でも同じですが、思い付き、今の流行り、他社がやっているから、などの安易な考えでリスキリングに取り組むのは適切ではありません。

 

将来の会社経営を支える事業や業務で必要となるような知識や技術を社員に学習してもらい、遂行してもらえるための能力開発手段としてリスキリングを位置づけ取り組むことが経営者には求められます。

 

4-2 リスキリングの導入の流れ

企業がリスキリングを導入する場合の流れを簡単に示しましょう。

 

リスキリングの導入の流れ

 

1)経営戦略・人材戦略に基づくリスキリング構想

第一にリスキリングをどのように実施していくかを、経営戦略・人材戦略に基づいて検討することが必要です。

 

事業や業務でのデジタル化やDX等の活用が世間で注目され、実際に導入されるケースが増えていますが、具体的なDX等の構想もないのに、「必要そうだから」とか「他社でやっているか」などの理由で闇雲に導入しても期待する効果は得られません。

 

「近い将来、○○が可能となるようDXを実現して□□の新事業を推進していくためのノウハウや技術を確立する必要がある」という方針のもとでリスキリングの内容や対象とする社員などを検討する必要があるのです。

 

リスキリングの構想では、将来実現したい事業・業務で必要となる知識・技術・スキルを洗い出し、現在の社内に存在しない要素・レベル等を確認することが第一に求められます。

 

そして、そのギャップを把握して、それを埋めるためのリスキリングの内容(学習領域、取得する知識・スキル等のレベル、自社でのカリキュラム、推奨資格、研修機関等)を検討することが重要です。

 

2)従業員のスキルの見える化

リスキリングの具体的な内容を決定するにあたり、既存社員の保有する知識やスキル等を把握する必要があります。社員のキャリア形成を行っていく上でも現状におけるスキル等の把握は重要です。

 

戦略として進める事業において必要となるスキル等の内容と、既存の社員が保有する現在のスキル等の内容とにどの程度の差があり、どれくらいそれを解消する必要があるのかを把握することが求められます。

 

無駄をなくし効果的な学習を進めるためには、こうした確認が必要になりますが、その社員のスキル等の把握に「スキルマップ」などを作成して利用するとよいでしょう。

 

スキルマップとは、社員の業務遂行能力をまとめた一覧表です。具体的には、業務を実施していく上で必要となる知識・技術・スキル・資格などをどの社員がどのように保有しているかをまとめた一覧表になります。

 

スキルマップを利用することで、リスキリングを効率的に実施することが容易になるほか、社員のキャリア形成を検討していく場合でも有効なツールになり、自己啓発を促すことにも利用できるでしょう。

 

3)教育プログラムとコンテンツ等の決定

リスキリングの対象となる知識やスキル等の内容が決定したら、その学習が可能となる教育プログラムやコンテンツなどを選定していきます。

 

リスキリングの教育プログラムやコンテンツなどを提供する組織や事業者は多数あり、その提供の方法も研修会、オンライン講座(ライブ形式)、eラーニング(録画コンテンツ等)など様々です。

 

民間の事業者だけでなく、自治体や公的機関などがリスキリング関連のプログラム等を提供しているケースも多くあり、利用すれば費用を抑えられます。

 

なお、こうした中から内容的にもコスト的にも満足できるものを選定するには、第3者の意見やアドバイスなどを受けることも重要です。公的支援機関や社員教育を支援する事業者などに相談することも検討しましょう。

 

また、自社内で特定の知識・スキル等を保有する者が他の社員を教育するためのコンテンツ等を作成することなども有効です。

 

4)リスキリングの実施体制の整備

リスキリングは基本的に勤務しながら学び直しをする教育方法になるため、既存の業務や社員の体調等に大きな負荷がかからないように進める体制が求められます。

 

そのためにはスキル等を習得するのに要する時間(学習時間を含む)、その習得時間に割り当てられる就業時間などを確認した上で、業務や学習する社員への影響を評価することが重要です。

 

就業時間外のプライベートな時間で学習することが必要な場合はその点の負担なども考慮しなければなりません。また、業務に支障が出る場合にはそのサポート体制なども事前に決めておく必要があります。

 

リスキリングの対象となる社員およびその職場等に過度の負担が生じない仕組を作り、無理なくリスキリングが進められる体制を整えましょう。

 

5)習得した知識・スキルの活用

リスキリングで習得したスキル等を活用しないのでは意味がないため、実務に活用できるように計画を立て実施することが必要です。

 

例えば、あるDXを実現するための知識や技術などを社員に習得させたとしても、実際にその事業やプロジェクトなどを実施していかないと、その得た技術等を活かすことができません。

 

また、そうした事業やプロジェクトが進められていたとしても、リスキリングで学習した者がそれらの部署に配属されねばそれを活用できないことになります。

 

学習・習得したことが即実践で利用できるとは限りませんが、いつまでも実際の活用の場がなければ、その習得した知識や技術は陳腐化する恐れが生じるほか、本人の知識やスキルが低下しかねません。

 

そのため、学習させた後に長期期間放置させるのではなく、早めに対象となる業務に従事させる措置が求められます。

 

4-3 リスキリングで失敗しないためのポイント

リスキリングで成功するには会社側と社員側との目的の共有化と協力が欠かせません。必要なスキル等を習得させる機会を単に戦略や計画にそのため提供するだけでは不十分になり得るため、以下のポイントにも留意して取り組みましょう。

 

リスキリングで失敗しないためのポイント

 

1)社員のリスキリングに対する理解と協力

教育を受ける社員側においてもリスキリングに対する理解が必要です。会社から指示されたから、言われたから指定の教育や訓練を受けるといった消極的な姿勢では期待の学習効果は望めません。

 

また、受けた教育による知識や技術を実際の業務等で社員自ら活用することでその教育の効果が高まりますが、受け身の態度である場合そうした効果も期待することは難しいです。

 

そのため教育等を受ける社員には、受ける意義やメリットを伝えて納得してもらい積極的に学習やその後の実務に臨むように導く必要があります。ところが「この知識や技術は将来必要になるから学習してもらいます。」というような表面的な指示だけで伝達されるケースが少なくありません。

 

しかし、それでは社員は「本当に重要なのか」「忙しい業務を割いてまで取り組む価値があるのか」などの疑念を持ち、学習に対して積極的に取り組むのが難しくなるのです。それに対して以下のような説明をして学習を促すと社員の対応も変わってきます。

 

例えば、「将来の会社の成長を担う新たな事業(や業務プロセス)において、その核となる〇〇のDXを実現するためには□□の知識や技術が不可欠であり、それを今から確保する必要があるため、あなた(達)に学習してもらうことにしました。この施策は経営戦略にそのため措置であり、重要な計画として実施しなければならいアクションになっている点を理解し協力してください。」

 

新事業年度での訓示や、社内会議や社内報などにおける経営トップからの方針表明等において、そうしたリスキリングの意義や内容をしっかり説明し理解と協力を求めることが重要になります。

 

学習や業務の成果は、社員の内発的動機(個々の社員の自律的に取り組みたいという思い)に大きな影響を受けるため、それを誘発するための会社側からの呼びかけが必要となるのです。

 

2)学習が進む環境の整備

リスキリングの実施体制の整備の一環として、社員に対して学習に取り組みやすい環境を提供することも重要になります。様々なことが対象になりますが、例えば以下のような点が挙げられるでしょう。

 

・必要となる能力・スキルの内容と社員個人が望む内容とのマッチング

会社にとって必要な技術等であっても、社員にとって苦手である、興味がない、といったことであれば、学習意欲が削がれかねません。できるだけ個人の希望にあう学習対象を割り当てるといった配慮も重要です。

 

・社員同士の学びの場の提供

内容や状況によっては社員同士で学習を進めさせることが大きな効果に繋がることもあります。社員同士の学び合いや学びの成果の共有などを通じて、知識や技術の理解と活用を進めることも可能です。

 

・学習後の新たな事業部門やプロジェクトへの配属

本人の意志も考慮した上で、学習者を新たな事業部門やプロジェクトへ配属させ、学習した知識・技術等を早めに活かせる状況にすることが求められます。実際の業務で活用できる、という状況は学習の深度を深めるのにも有効です。

 

また、そうした対象となる部門等がない場合は早期に新設するといった対応も必要になるでしょう。

 

3)人事制度との連携

リスキリングは人的資源管理における施策でもあり、人事制度との関連も大きいため、その扱いを適正に行う必要があります。

 

具体的には、リスキリングの実施後の業務内容や配置をどうするか、既存業務や新業務での成果をどう評価しどう処遇するか、という点を社員の納得のいく形で、モチベーションが上がる内容で実施することが重要です。例えば、以下のような点が挙げられるでしょう。

 

・学習に対する評価

 

特定のプログラムを受講し、関連の資格を取得した場合に一定の手当て等を支給するなどが挙げられます。

 

・人事考課上の配慮

 

特定の教育を受けて新たな部門等に配属された場合、直ぐに新たな業務で成果を出すのは困難です。そのため業務の結果よりも取り組んでいる課題の困難度、プロセスでの取組内容、などを評価してモチベーションを上げることが求められます。

 

また、新たな職務や役職などを与え、それ応じた報酬を加える(昇給など含む)といった対応も重要です。

 

・キャリア形成への配慮

 

リスキングという能力開発でも、企業の戦略目標の達成と本人のキャリア開発での希望とのマッチングが望まれます。つまり、企業の将来の事業目標を達成するための社員教育と社員のキャリア形成がリンクし成果をもたらすことがベストな状況と言えるでしょう。

 

社員が望むキャリアと企業の思惑を一致させることは簡単ではないですが、可能な限り社員の要望を取り入れつつ戦略に適合する能力開発を進める取組が重要です。社員の希望するキャリア開発とリンクしない能力開発を押し付けるとモチベーションを下げ離職に繋がる可能性が高まります。

 

優秀な人材を繋ぎとめやる気を出させて困難な業務などに挑戦してもらうためには、社員に寄り添った対応も必要です。

 

4)管理職等のリーダーのサポート

能力開発を含め人事制度の施策は各職場の管理職等のリーダーを通じて行われるケースが多いため、社員の能力開発やキャリア形成等の実施においても各リーダーのサポートが重要になります。

 

社員の能力開発に関するトップマネジメントと部下との調整、能力開発時の既存業務のフォロー(学習時間の確保等)、学習の支援や悩みの相談、学習後の異動・配置換えの検討、キャリア開発への支援、学習後の人事考課などリーダーが担う役割は多いです。

 

そのためこのリーダーの学習者に対する支援や扱いが適正であるかどうかが、学習の成果やその後の彼らのモチベーションに大きな影響を与えることになります。

 

そのため、会社側としては、各リーダーが上記のような事柄に対して適正に実施できるよう指導しなくてはなりません。リスキリングの対象となる社員だけでなく、その上司であるリーダーに対する適切な研修の実施などの対応が必要です。

 

また、リーダーに対する評価の1つとして、リスキリング対象者に対するフォローなどを加えることも有効でしょう。

 

5)学びの気運の醸成や企業文化への落とし込み

学習の効果を高めるためには、自らの積極的な取組、つまり、社員の自律的に学習に臨む姿勢が重要となります。リスキリングでも効果を高めるには、こうした自律的な学習態度が必要です。

 

そのため、会社としてはその自律的な学習態度を醸成できる環境を整えていくことが求められます。リスキリングによる、将来の会社の事業や業務で必要となる知識・技術等を習得することの意義、それを実現した場合の処遇(昇給や昇進等)、キャリア形成上のメリット、自己実現欲求の充足などを社員に訴求することが重要です。

 

そして、それらに対応した施策を行うルールや仕組を作り、経営者が中心となって運用していかねばなりません。そうすることで社員達に、リスキリングへ積極的に取り組む機運が生じやすくなります。

 

その気運が組織に定着するように支援・運用を継続すれば、組織文化へと昇華することも可能です。社員自ら会社と自分の将来のために何を学び習得するかを考えて取り組み、その成果を仕事に活かそうと考える社員が多い会社は、変化の激しい経営環境の中でも成長を持続させやすくなります。

 

 

5 リスキリング後の独立・会社設立の進め方

リスキリング後の独立・会社設立の進め方

 

会社のリスキリングで習得した知識や技術等を活かし、将来、独立して会社を設立する場合の進め方を紹介しましょう。

 

5-1 リスキリングへの参加と知識・技術等の選択

リスキリングは、新技術等を習得する機会になるため、会社に働く社員にとっては将来の転職や独立のチャンスを広げることになります。そのためリスキリングの対象となる機会があれば、自ら手を上げて参加し学習に取り組むことが重要です。

 

また、将来、独立等を考える者にとっては、それに有効な知識・スキル等を選択するという考えも必要になります。つまり、将来の転職・独立を考える場合は、その可能性を視野に入れた選定が重要です。将来、従事したい業種・職種・業務の内容や、発展が期待される事業分野およびそれに必要なる技術分野などを踏まえて検討しましょう。

 

例えば、現在ではDXに関連した事業・業務や技術などが注目されており、DXとともに「データ分析」「IoT」「AI」「Webアプリ」などの技術やスキルなどが関心を集め、その関連人材の需要が高まっています。

 

自身がこれまで培ってきた知識・技術等の分野に加えて、上記のような視点で将来の独立に役立つような学習内容を選ぶようにしましょう。

 

5-2 リスキリング学習の成果を活かした事業構想

リスキリングで得た技術等を会社の実務で活かしながら、将来独立するための事業アイデアを発想しそれを具体的なビジネスとして構想する必要があります。学習した知識等を業務で活用し、注意深く世の中や業界等の動きを観察していれば、新たなビジネスの種やニーズを発見することも可能です。

 

そして、その発見したニーズについて、自分が業務などで培ってきた知識やノウハウ等を活用してビジネスの仕組みを考えていきます。例えば、「○○分野の製造業に対して、生産効率や販売効率を高める「IoT」と「AI」を活用したDXの導入を図る」というモデルを検討するのです。

 

将来、独立・会社設立するという意識を持って実務に従事しながら、何かニーズはないか、どうすればそのニーズをビジネスとして具体化できるかなどを意識していると、ビジネスモデルを構想することは難しくなくなります。

 

5-3 独立・会社設立の主な手順

ビジネスモデルが優秀であっても、それを具現化する企業形態が不適切であったり、設立が遅かったりしてはビジネスチャンスを逃しかねないため注意しましょう。

 

事業を始める場合の企業の形態として、個人事業主(フリーランスを含む)や法人(株式会社等・NPO法人・社団法人等)を選ぶことになります。どの形態を選ぶかは事業の内容・性質・目的などによって異なるため、将来の事業展開なども考慮して決めることが重要です。

 

個人事業主から始め、事業が軌道に乗ってから法人化するというパターンも多いため、最初から株式会社で始める必要はありません。ただし、その企業形態には各々メリット・デメリットの両方があるため、その点を理解した上で選択することが望ましいです。

 

なお、どの形態を選択するにしても設立する際の法的な手続や届出などが必要となることも多いため、その点を事前に確認しておきましょう。例えば、株式会社の場合は以下のような手続や作業が必要です。

 

株式会社設立の主な手順

 

(1)会社の基本事項の決定

会社設立の手続を進めるにあたり、以下の項目を決定します。

 

  • 商号
  • 事業目的
  • 所在地
  • 資本金
  • 役員(代表取締役等)
  • 株主の構成
  • 設立日(登記申請した日)
  • 会計年度(事業年度)

 

(2)会社印鑑の作成

法務局に登記申請する時に必要になる(登記申請書への押印)「代表者印」(会社実印)を作成しておく必要があります。また、金融機関等で使用する「銀行印」や業務で頻繁に使用する角印(会社の認印)・ゴム印も用意しましょう。

 

(3)定款の作成と認証

定款は、会社設立時に発起人全員の同意のもとで作成する会社の基本ルールで、その記載内容は会社法によって定められています。そのため、法的に作成が義務付けられているものです。

 

なお、株式会社の設立の場合、定款の作成後に公証役場で認証を受ける必要があります。定款の作成および認証には一定の手間とコストがかかる点に注意しましょう。

 

(4)資本金の払込み

定款の認証後は金融機関に資本金を払込みます。その際、登記申請の際に必要となる残高証明書の発行を受けるようにしましょう。

 

資本金の払込みは、会社設立登記の前に行うことから会社の銀行口座開設はできないため、資本金の振込先は発起人の個人口座になります。

 

(5)登記申請

法務局で会社設立の登記申請を行います。その際、必要となる書類等を漏れることなく用意して申請することが重要です。

 

(6)会社設立後の諸届出

会社設立後は、税金関連で税務署に、社会保険(健康保険・年金保険・労災保険等)関連で労働基準監督署・社会保険事務所・ハローワークなどに必要な届出を行います。

 

また、業種や事業の内容によっては都道府県や各行政庁などで許認可の申請手続も必要になるため、会社設立前に確認して適切な時期に申請するようにしましょう。

 

5-4 自社でのリスキリングの導入と運用

独立後、企業としての発展・成長を維持するためには新しい事業や業務プロセスの開発が必要となります。そして、それを実現するためにはそのための新たな知識・技術・スキルなどが組織として要求されることになるのです。

 

つまり、自分の会社においてもリスキリングという能力開発が必要となり、進めて行くことになります。導入にあたってはこれまで確認してきた内容に従うことになりますが、規模の小さい会社の場合は人・モノ・金などの資源の制約が大きくなるため、その点を踏まえた対応が重要です。

 

教育費に多額の資金を当てることが困難であったり、企業財政を悪化させたりするため注意して実施する必要があり、公的な補助金・助成金の活用は必須と言えます。国のほか都道府県等の助成金もあるため可能な限り利用しましょう。

 

また、社員が学習できる体制を整備することも重要です。学習のために業務に穴が開いて生産性が低下したり、品質に問題が生じたりすれば、会社の利益や信用を低下させるだけでなく、社員のモチベーションを下げかねません。学習時の業務フォローをどうするかを部門全体で話し合い協力を求めることも必要です。

 

そのほかでは学習後の離職をどう防ぐかを検討しておく必要があります。自分が独立したように社員が学習後に退職するようでは大きな痛手となるため、社員の考えを聞くなどして長期に渡って勤務し続けるための施策を提供していくことが重要です。

 

また、独立を回避しにくい場合などでは、独立を支援して自社のパートナーとして活用していく取組も必要になります。リスキリングにかかわらず提供した教育・能力開発が会社にとって無駄ではなく有益となるような方法を検討しましょう。

 

 

6 まとめ

会社設立時からも考えたいリスキリングの導入・活用の方法

 

リスキリングが脚光を浴びるようによって、社員の能力開発の重要性が再認識され始めました。DX等で注目される知識・技術等を、単に社員に学習させるというのではなく、新たな事業や業務を実現するという戦略的な視点や既存業務を変革するという方針のもとで能力開発を進めることが重要です。リスキリングの活用も含め、自社の発展に貢献する社員の人材育成や能力開発に取り組んでください。


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