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  <    <  会社設立時から参考にしたい長寿経営の方法

会社設立時から参考にしたい長寿経営の方法

起業や会社設立する際に「100年を超えて活躍できる企業にしたい」と決意する創業者も多いのではないでしょうか。実際、日本には創業100年以上の長寿企業が多く存在していますが、その反面、創業から5年程度で廃業・倒産に至る企業も少なくありません

 

今回の記事では、長寿企業の優れた経営哲学・手法などに着目して、企業が長期に渡って事業を継続していくための経営方法についての解説です。創業直後の経営課題から長寿企業の特徴、事例から見える経営のポイントや注意点などを紹介します。

 

会社設立時からの苦難を乗り越えて長期に会社を存続させる経営のコツなどを知りたい方は是非参考にしてください。

 

 

1 起業・会社設立からの企業の存続状況

起業・会社設立からの企業の存続状況

 

創業後、企業はどのくらい事業を継続しているのか、長寿企業はどの程度存在するのか、など確認していきましょう。

 

 

1-1 創業後の生存状況

平成23年度版中小企業白書の「企業の生存率」によると、1980~2009年に設立している企業の各創設後経過年数における生存率の平均値は、創設後5年で約20%、10年では約30%、20年では約50%となっています。

 

特に創設後5年の生存率が低くなっており、創業後5年間の経営の難しさが理解できます。その後10年後から20年後にかけても生存率は穏やかに下がり、この期間を乗り越えれば40%台後半程度で落ち着きます。

 

そのため、創業後5年から10年といった期間を乗り切れば長寿企業へと進める可能性は高いと言える状況です。

 

第3-1-11図 企業の生存率

 

第3-1-11図 企業の生存率

 

・起業後の企業生存率についての国際比較

 

下図は平成29年度版中小企業白書で、起業後の企業生存率について国際比較した資料です。各国の統計やデータの性質が異なるため、単純に比較するのは適切ではないですが、この図によると、起業後5年間で英国は57.7%、フランスは55.5%の企業が市場から姿を消しているのに対し、日本の場合は18.3%と大幅に低くなっています。

 

開業率・廃業率を国際比較すると日本は欧米諸国よりも両方ともに低く、企業の参入・退出における新陳代謝は活発ではありません。しかし、事業を長期に継続させるという点において日本は欧米諸国よりもその傾向が強いと言えます。

 

従って、日本企業の経営には、欧米諸国よりも事業を長期に存続させる特徴(考えや仕組み)が存在すると言えます。

 

平成29年度版中小企業白書

 

(株)東京商工リサーチは「2020年『業歴30年以上の“老舗”企業倒産』調査」を行い自社サイトに公表しています。

 

この調査によると、2020年に倒産した企業の平均寿命は23.3年(前年23.7年)で、2年連続で前年を下回っており、企業のライフサイクルが短くなる傾向が強まっているのです。

 

「業歴別の企業倒産件数構成比推移」のデータを見ると、業歴30年以上の割合は32.5%、業歴10年未満の割合は27.4%となっています。両者のここ3年間の推移については、前者は32%程度の横ばい、後者が4年連続で過去最高を更新するなどの上昇傾向が顕著です。

 

1)老舗企業

  • ・“老舗”企業は、長年の事業経験に加え、金融機関や取引先とのパイプは太い。新型コロナ感染拡大など不測の事態への対応力は備えているが、一方で過去の成功体験に囚われ、外部環境の変化への柔軟性が欠ける企業も少なくない。
  • ・さらに、代表者が高齢化の場合、業績が悪化傾向をたどる企業が多い
  • ・事業承継や後継者問題などで倒産や休廃業を決断するケースも増えている

 

以上の点をまとめると、危機対応力を備え適切な事業承継を行いつつ、環境変化に対応できる経営していけば企業寿命を伸ばせる確率が向上できると言えます。

 

2)新興起業

一方、業歴10年未満の“新興”企業については以下のように分析されています。

 

  • ・政府の創業支援を背景にしながら、ずさんな経営計画による創業も少なくない
  • ・経営基盤の脆弱さ、業績の低迷に加え、コロナ禍の厳しい事業環境への耐性の弱さを露呈した

 

*「2019年は深刻な人手不足、消費税増税で倒産が増加、2020年は新型コロナ感染拡大で経営環境は大きく変化した」

 

その結果、新興企業の倒産件数構成比の割合は4年連続で過去最高を更新しました。創業期の企業は経営資源が脆弱で取引先や顧客の開拓も難しく業績を順調に伸ばすのは容易ではありません。また、資源不足や経験不足等から突発的な危機に対応するのは困難であり準備に多くの時間も必要です。

 

こうした状況の中、不十分な経営計画で事業を行っても期待する成果は得られず、結果的に経営が早期に行き詰まってしまいます。

 

 

1-2 国内の長寿企業の実態

(株)帝国データバンクは2019年1月8日に「老舗企業」の実態調査(2019年)を公表し「老舗企業」の状況を報告しています。その調査結果の概要は以下の通りです。

 

*ここでの「老舗企業」とは「業歴100年以上の企業」のこと

 

1)2019年中の「老舗企業」は全国に3万3259社存在する。老舗企業の全体に占める割合(老舗企業出現率)は2.27%となった
*帝国データバンク社の企業情報は145万社以上ですが、日本国内のすべての企業数ではありません。

 

2)業種別に見ると、老舗企業の社数が最も多かったのは、「製造業」の8344社(構成比25.1%)で、「小売業」(7782社、同23.4%)、「卸売業」(7359社、同22.1%)が続いた

 

3)年商規模別に見ると、老舗企業数が最も多かったのは「1億円未満」(1万3786社、構成比41.5%)で、「1億~10億円未満」(1万2986社、同39.0%)がこれに続く
⇒老舗企業の大半は10億円未満の企業が大半で、規模的にはあまり大きくないです。従って、規模が小さくても長生きできる経営は十分可能であると言えます。他方、長寿が実現できても会社や事業を大きくできないケースも少なくありません。

 

4)老舗企業のうち上場企業は532社
⇒2018年末の上場企業数は3655社であるため、上場老舗企業の割合は14.6%です。従って、全体の老舗企業出現率よりもはるかに高いため、上場企業になれるような企業になることが長寿企業への近道になり得ます。

 

5)戦争や経済危機、災害を乗り越え、企業を存続させることは容易ではない。老舗企業の中には、100年以上の歴史の中で成功や失敗を繰り返し、その過程で業態を変えた企業も見受けられる
長寿企業の経営には大きな危機を含む環境への対応力が必要であり、事業や業態を変えるなどの行動も必要です。他方、変更しない、比較的小規模な変化に留まる場合などは、衰退していくケースも見られます。

 

6)老舗企業は特にBCP策定率が高いことが判明しており、危機意識が高いことも老舗企業の特徴の一つ
⇒分析では、「老舗企業は特にBCP策定率が高い」と指摘しており、危機意識の高さが長寿企業に繋がる重要な要素であると推察されます。

 

 

1-3 世界と比較した長寿企業の実態

(株)日経BPコンサルティングのビジネス情報サイト「周年事業ラボ」では、2020年03月18日に2020年版100年企業<世界編>の記事として「世界の長寿企業ランキング、創業100年、200年の企業数で日本が1位」が公表されています。

 

1)創業100年企業の国別ランキング

  • ・世界の創業100年以上の企業の総数、8万66社
  • ・世界で最も100年企業が多いのは日本で3万3076社(41.3%)。2位は米国の1万9497社(24.4%)、3位にスウェーデンの1万3997社(17.5%)が続いた
  • ・創業200年まで絞ると1位は日本の1340社、比率は65.0%まで上昇。2位は米国の239社(11.6%)、3位はドイツの201社(9.8%)、4位は英国の83社(4.0%)

 

2)創業100年以上業種別比率(日本)

国内創業100年以上の企業の業種を見ると、製造業、小売業、卸売業の3業種が20%を超えており、建設業、サービス業、不動産業が5~7%程度で続き、これら以外の業種が5%未満となっています。

 

上記の結果から以下のような点が注目されます。

 

・日本の長寿企業が世界に比べて多い
⇒産業の歴史的な背景も関係しますが、日本の企業経営には長寿に繋がる方法が多く採用されている可能性が高いです。

 

・長寿企業には製造業、小売業、卸売業の3業種が多い
⇒近代化以前では、モノを作って流通させることが主要な経済活動であり、近代化後は国を超えた活動が加わったため、製造業、小売業、卸売業がより重視されたものと推察されます。

 

 

2 事業活動と長寿を阻むリスク要因

事業活動と長寿を阻むリスク要因

 

ここでは企業が会社設立後から長寿に至る過程で直面する様々な問題などを取り上げ、どのような要素が危機となり長寿を阻むのかを確認していきましょう。

 

 

2-1 創業前後の問題

創業前後で生じる様々な問題を確認していきます。

 

①「2020年度新規開業実態調査」から

日本政策金融公庫総合研究所が2020年11月19日に公表している「2020年度新規開業実態調査」では、以下のような点が指摘されました。

 

●「開業時に苦労したこと(3つまでの複数回答)」(P13)

 

・「資金繰り、資金調達」(55.0%)、「顧客・販路の開拓」(46.8%)を挙げる企業の割合が高い、ほかには、「従業員の確保」が17.5%(やや横ばい)、「仕入先・外注先の確保」が15.0%(緩やかな上昇傾向)

 

●現在苦労している点

 

・「顧客・販路の開拓」(47.3%)に次いで「財務・税務・法務に関する知識の不足」(32.4%)の割合が高くなっている

 

ほかには「資金繰り、資金調達」が30.8%(前年水準から大幅下落)、「従業員の確保」が24.7%(前年水準から下落)、「従業員教育、人材育成」が18.7%(下落傾向からの反転)

 

⇒以上の内容から創業前後の問題として、資金調達、販売先の確保・開拓、人材の確保・育成、といった点が確認できます。

 

②平成29年度版中小企業白書から

同白書の第2-1-51図は、起業後の企業の「成長タイプ別に見た、各成長段階で直面している課題」を示す資料です。

 

同白書では、創業した企業を高成長型、安定成長型、持続成長型の3つの成長タイプにわけ、各タイプの成長ステージである創業期、成長初期、安定・拡大期にどのような課題を抱えているかが分析されています。

 

創業期:本業の製品・商品・サービスによる売上がない段階
成長初期:売上が計上されているが、営業利益がまだ黒字化していない段階
安定・拡大期:売上が計上され、少なくとも一期は営業利益が黒字化した段階

 

分析の結果は以下の通りです。

 

創業期においては、「資金調達」の割合が最も高く、次いで「家族の理解・協力」の割合が高くなっている
⇒創業期は「資金調達」を課題とするケースが最多で、資金の確保が重要であることが確認できます。また、起業の際に家族の理解が十分得られないといった、創業期特有の問題も注意が必要です。

 

・成長初期においては、「資金調達」の割合が創業期に引続き依然として高いが、「質の高い人材の確保」、「量的な労働力の確保」などの人材確保に関する課題の割合も多い。さらに、「販路開拓・マーケティング」や「自社の宣伝・PR」など販路開拓に関する課題についても、比較的割合が高い
⇒事業を拡大させるためには、資金のほか人材や取引先の確保も重要です。企業の成長段階や事業方針・戦略などに基づき、企業はその適した経営資源を確保していかなければなりません。

 

・安定・拡大期においては、「質の高い人材の確保」の割合が最も高く、次いで「企業の成長に応じた組織体制の見直し」、「量的な労働力の確保」の順になっている
⇒この時期では人材確保や組織体制の整備に関する課題が最も多く、成長に合わせた組織体制の整備・充実化の必要性が確認できます。

 

・各成長段階共通の課題
⇒各成長段階での共通課題は「販路開拓」と言えそうです。各段階で販路開拓の活動は重要で、手を抜いてしまうと成長に支障をきたしかねません。
*先の日本政策金融公庫の調査でも「販路開拓」が課題として確認できました。

 

29年度版中小企業白書29年度版中小企業白書

 

 

2-2 企業が直面するビジネス環境

企業が息の長い経営を続けるためには外部と内部から影響を及ぼしてくる様々な要因に対して適切に対応していかねばなりません。ここではその外部要因、内部要因の内容を確認していきましょう。

 

①外部要因

外部要因は、自社のビジネスモデル等に影響を及ぼす全ての外部からの圧力やプラスとなる要因のことです。具体的には環境分析手法のPEST分析や5Forces分析の要因などが該当します。

 

1)PEST分析

 

PEST分析

 

PEST分析は、Politics(政治)、Economics(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の4つの領域から自社や業界に影響する要因を抽出し、外部環境の状況を分析する方法です。

 

Politicsは政治や法律の動きなどの要因で、政府の政権交代や政策転換、法律の改正や規制の強化・緩和等のほか、業界団体の内規定の変化、戦争・紛争やテロなども含まれることもあります。

 

Economicsは経済的要因のことで、景気、インフレ・デフレ(物価動向)、金利・為替(金融情勢)、経済成長率、賃金・労働力(雇用情勢)、株価、金融危機、原油、などが代表的です。

 

Societyは社会的環境要因で、主に、人口動態(少子高齢化等)、文化・価値観、教育制度、デジタル化、ライフスタイルなどの変化が該当します。

 

Technologyは技術的環境要因のことで、主に、新技術・先端技術の誕生、イノベーションの実現などです。具体的にはインターネットやデジタル化の普及、AIや5G・6Gの進展などが該当します。

 

これらの要因は事業上のプラスにもマイナスにもなり得ますが、特にマイナス側に作用するケースは要注意です。また、上記の4領域には含まれないですが、自然災害というリスク要因への備えは忘れてはなりません。

 

自然災害には、地震、津波、台風・集中豪雨、河川の氾濫、火事、落雷、突風・竜巻、などのほか、新型コロナウイルス感染症といったパンデミックも含まれます。

 

2)5Forces分析

 

5Forces分析

 

5Forces分析は業界の魅力度(収益性)や競争環境の状況を分析するためのフレームワークです。その魅力度等を測る視点として5つの力(Forces)が設定されています。

 

・既存競合者同士の敵対関係
業界内の企業同士の競争関係を以下のような要因で分析する視点です。要因の傾向が強いほど競争は激しいと判断できます。

 

同業者数の多さ
同程度の規模の企業の多さ(競争の優劣が直ぐにつきにくく、競争が激しくなりやすい)
業界の成長率の遅さ(遅いほど競争は激化しやすい)
固定費や在庫費のウエイトが高い(コストの回収に向けて価格勝負しがち)
製品等での差別化が困難(価格勝負しがち)

 

・新規参入の脅威
自社の業界へ外部企業がどの程度参入しているか、参入しやすいか、という視点です。新規参入者が多い、参入しやすい(参入障壁が低い)などの場合は業界内の競争は激しくなり、成長や生存が難しくなります。

 

なお、代表的な参入障壁の種類は以下の通りです。

 

規模の経済(生産量の増大に伴う単位あたりのコストの低減:大規模設備によるコストダウン等)
ブランド力(の浸透の影響)
流通チャネル(チャネル構築のコストや難易度)
スイッチング・コスト(他社品への切り換えに伴う費用や手間等)
技術力

 

・代替品(代替サービス)の脅威
代替品とは自社や業界内の製品・サービスに代わる価値を有する外部のもののことです。代替品が少ないほど業界内の競争は緩やかとなり、多いと競争が厳しくなります。

 

具体的には、マッチにとってのライター、デジタルカメラにとってのスマートフォン、テレビ広告にとってのYou Tube広告、ガソリン自動車にとっての電気自動車、などが代替品です。

 

代替品のコスト、デザイン、便利さや性能、などが優れているほど、乗り換えの手間が少ないほど、既存品が駆逐される可能性が高まります(厳しい競争が強いられる)。

 

・買い手の交渉力
買い手の交渉力とは、消費者などの買い手が売り手に対して価格や品質などについて要求できる力のことです。例えば、買い手が少なく売り手が多い状況下では買い手の交渉力が増し業界内の競争は激しくなります。逆に買い手が多く売り手が少ない場合競争は緩やかになる可能性が高いです。

 

・売り手(供給業者)の交渉力
売り手の交渉力とは、部品や原材料などを納入する事業者が買い手に対して価格や納期などについて要求できる力を指します。売り手の数が少ない、売り手が供給する販売品・サービスの価値が高い・希少などである場合、売り手の交渉力は増し売り手の競争は緩やかです。

 

例えば、コンピューターのCPUを供給するインテル、基本ソフト(OS)を供給するマイクロソフトなどは市場を独占しており交渉力が高く、業界内の競争は激しくありません。

 

⇒このようなマクロとミクロの外部要因が自社にどのようにプラスに働くのか、マイナスとして作用するのかを把握して、自社が有利になるように、不利にならないように対応することが、事業の発展や持続に不可欠です。

 

②内部要因

企業が外部要因からの影響に対応して存続していくためには、内部環境の整備が必要になります。

 

内部要因とは、企業が有する人・モノ・金・情報(ナレッジ)などの経営資源、その運用や管理などです。企業がどのようなリソースを保有・運用するかで、企業の将来が左右されます。

 

例えば、企業が自社の事業方針・戦略に必要なリソースを適切なタイミングで保有・運用できれば、事業を成長させ自社を発展させることが可能です。逆にそれを適切に保有や活用(展開)できなければ、ピンチを招き事業の継続が困難になってしまいます。

 

つまり、自社の内部要因の状況次第で企業の成長や存続が大きく左右されるため、その点を理解してリソースの適切な確保と活用に努めなければなりません。

 

なお、経営資源として以下のような項目が挙げられます。

 

経営資源

 

人材:従業員数、年齢構成、保有スキル・熟練度 等
組織:組織形態(編成)、拠点数、マネジメント体制 等
資産:工場・生産設備の数・性能、販売拠点数などの有形資産と、ブランドや特許などの無形資産 等
資金:自己資本や内部留保の大きさ、資金調達力の大きさ 等
情報:技術・ノウハウ、特許、顧客情報、情報の収集・分析・活用・共有のシステム 等

 

以上の経営資源の中でも人と組織は特に重要です。事業を運営し業務を担い全体を管理するのも人であり組織であります。そのため企業の発展段階や事業の状況などに応じて適切に人・組織を整備し運営しないと業務が回らず業績悪化を招き事業の存続が困難になりかねません。

 

 

2-3 企業倒産の原因

企業倒産の原因

 

中小企業庁では(株)東京商工リサーチのデータを基に「倒産の状況」をホームページで公開しています。その公開情報(エクセルデータ)にある倒産原因の内容を紹介しましょう。

 

下表は上記データにある原因別倒産状況の資料を抜粋したもので、7773件の倒産についての原因の内訳を示しています。

 

放漫経営 過少資本 連鎖倒産 既往のしわよせ 信用性の低下 販売不振 売掛金回収難 在庫状態悪化 設備投資過大 その他
390 205 361 771 34 5729 26 2 47 208

 

表の通り、倒産原因の項目はその他を除いて9つです。多い項目から「販売不振」「既往のしわよせ」「放漫経営」「連鎖倒産」「過小資本」と続きます。これらの5項目で全体の約95.9%です。従って、これらの5項目について適切に対処すれば経営危機は回避しやすくなります。

 

*参考
・既往のしわ寄せ:
経営状態が悪化しているにもかかわらず、適切な対策をとらずにこれまでの資産を食い潰しながら倒産に至るという原因

・過小資本
資本金の少なさにより事業が適切に運営できなくなり倒産に至るという原因

 

 

3 長寿企業のタイプと特徴

長寿企業のタイプと特徴

 

長寿企業に至る経営の内容を理解するために、その種類や特徴を確認しましょう。

 

 

3-1 長寿企業に共通する特徴

 

①長寿企業の創業年数と収益性

下図は平成28年度版中小企業白書の第2-6-13図で、「企業分類別に見た創業年数の分布」を示す資料です。

 

この図によると、 「100年以上」の長寿企業は、「経常利益率の高い企業」と「経常利益率の高い企業」の両方において存在する割合が他の創業年数の企業より低くなっています

 

資料の結果だけを見ると、全体的には長寿企業の大半はあまり儲かっていない、自己資本比率も高くない、といった特徴が窺えます。

 

平成28年度版中小企業白書の第2-6-13図

 

平成28年度版中小企業白書の第2-6-13図

 

②長寿企業の減少率

下図は①の白書のコラム2-6-2〔3〕図で、長寿企業の減少率と全体の廃業率とを比較した資料です。この資料によると、長寿企業の減少率は直近で1.5%~1.7%程度で推移しており、全体の廃業率は4%前後での推移となっています。

 

従って、長寿企業の減少率の方が約2%低く推移しており、全体よりも減少する割合が小さい、生き延びる確率が高い、と言えそうです。従って、長寿企業は非長寿企業と比べて経営環境の変化への対応力が高く、事業を継続させる能力がより高いと確認できます。

 

白書のコラム2-6-2〔3〕図

 

③長寿企業の売上高

下図は先の白書のコラム2-6-2〔4〕図で、「長寿企業と非長寿企業における売上高の推移」を示す資料です。これによると、長寿企業の売上高は創設100年以内の企業と比較して低く推移していることが確認できます。

 

2000年の売上高を100%とした場合、直近の傾向では長寿企業が80%足らずの水準で推移している一方、非長寿企業においては、110%~118%程度での推移です。従って、両者の間には約4割の開きがあり、長寿企業の売上高が相対的に低い水準であることが分かります。

 

白書のコラム2-6-2〔4〕図

 

先の①②の内容を含めると、長寿企業の収益性は非長寿企業よりも劣るものの、事業の継続力は高く長期間にわたって安定した経営が実施されていると言えます。

 

④長寿企業の多い業種

先に取り上げた帝国データバンク社の「『老舗企業』の実態調査(2019年)」で、長寿企業の多い業種を確認することが可能です。業種別の大分類では製造業が最も多く、「小売業」、「卸売業」と続きますが、細分類で見ると、上位10は以下の業種になります。

 

  1. 1位:貸事務所 894
  2. 2位:清酒製造 801
  3. 3位:旅館・ホテル 618
  4. 4位:酒小売 611
  5. 5位:呉服・服地小売 568
  6. 6位:婦人・子供服小売 535
  7. 7位:木造建築工事 492
  8. 8位:一般土木建築工事 479
  9. 9位:酒類卸 475
  10. 10位:土木工事 434

 

なお、注目される業種については以下のように解説されています。

 

・「貸事務所」については、創業時は別事業を主力事業としていた企業が、所有の土地にオフィスビルなどを建て、賃料収入が増加し、貸事務所業へと業種が変わったケースが多い
日本の近代化から高度経済成長期・バブル期まで産業の発展とともに不動産需要が急増していき、本業以上のコア事業になったケースが多いと推察されます。業種・業態の変更による長寿化の代表的なケースです。

 

・「清酒製造」については、清酒が1300年前から日本に存在していたと伝えられており、古くから定着している産業のひとつとなっている
⇒この業種は古い時代からの産業であり、人々の生活のほか政治や宗教との関わりの深さも影響しているものと考えられます。

 

・「旅館・ホテル」や「酒小売」、「呉服・服地小売」、「婦人・子供服小売」など、BtoC関連の業種が上位を占めている
⇒長寿企業には「衣食住」関連の地産地消型の業種が多いことが確認されており、地方での経営の参考になるはずです。

 

⑤主力事業の変化

平成25年3月22日に一般社団法人大分県中小企業診断士協会が公表している「長寿企業の事業展開に関する調査研究」によると、長寿企業の経営タイプとしては「創業当時の本業を応用した経営が主体」が52.9%と最多で、「創業当時の本業の商品(技術・サービス)を中心とした経営を展開」が21.7%、「創業当時の本業とはほとんど異なる経営」が22.6%となっています

 

従って、「本業からまったく異なる事業ドメインに変更した企業」は約2割で、「創業以来の本業維持+その応用の事業展開」が7割強となっており、後者の「本業を重視しつつ事業の幅を広げる経営」が長寿企業の主要な経営タイプと言えるでしょう。

 

⑥長寿企業の経営戦略

先の大分県中小企業診断士協会の調査では長寿企業の経営戦略が考察されています。調査によると、長寿企業の経営戦略では、「適正規模を守り、本業以外への進出は慎重」と「お客様との長い付き合いが重要」の点について回答する企業が各々7割を超えています

 

また、「顧客第一主義が経営で一番大切」「経営者、従業員、お客様、取引先のすべてが潤う経営が大切」が6割超の回答割合です。これらの点から長寿企業が経営戦略で重視する要素として、「本業や身の丈を重視する経営」「顧客第一」「三方よし(顧客・従業員・業者・地域社会など企業を取り巻く利害関係者を重視する経営哲学)」といった点が挙げられます。

 

ほかには、「従業員満足の向上」「地域・社会貢献」「安定・安全」などが上位の項目です。長寿企業は顧客、従業員、地域社会、などのステイクホルダーとの信用や信頼を重視するほか、過度の成長を目指さず、自社のリスクの許容範囲内での事業展開に注力する姿勢が読み取れます。

 

・長寿企業が経営戦略で重視する要素の上位11項目

 

  1. 1位:適正規模を守り、本業以外への進出は慎重
  2. 2位:お客様との長い付き合いが重要
  3. 3位:顧客第一主義が経営で一番大切
  4. 4位:経営者、従業員、お客様、取引先のすべてが潤う経営が大切
  5. 5位:雇用の維持が重要な社会貢献
  6. 6位:外部資金の借入にはかなり慎重
  7. 7位:資金力に裏打ちされた企業安定と信用が最も重要
  8. 8位:従業員と経営者との関係が親密
  9. 9位:伝統的な文化の継承を通した地域貢献が重要
  10. 10位:会社と従業員の一体感を重視した経営
  11. 11位:新規の投資には慎重に対応

 

⑦存続と今後の経営展開上の重要な要因

また、大分県中小企業診断士協会の調査では「長寿企業が存続してきた要因」と「今後の経営展開における重要な要素」について下記のような調査結果を報告しています。

 

●長寿企業が存続してきた要因の上位10項目

 

  1. 1位:創業来の本業を中心とした経営
  2. 2位:既存の顧客・取引先を重視した経営
  3. 3位:同族による経営のリーダーシップ
  4. 4位:新たな商品・技術・サービスの開発
  5. 5位:既存の商品・技術・サービスの改良
  6. 6位:既存の商品・技術・サービスの維持・継承
  7. 7位:資金の安定調達と堅実な運用
  8. 8位:社会貢献・地域密着を重視した経営
  9. 9位:企業理念・家訓の継承
  10. 10位:新規顧客・取引先の開拓・拡大

 

●今後の経営展開における重要な要素

 

  1. 1位:新たな商品・技術・サービスの開発
  2. 2位:従業員の育成
  3. 3位:資金の安定調達と堅実な運用
  4. 4位:新規顧客・取引先の開拓・拡大
  5. 5位:後継者の育成
  6. 6位:既存の商品・技術・サービスの改良
  7. 7位:創業来の本業を中心とした経営
  8. 8位:コスト削減への積極的な取組み
  9. 9位:既存の顧客・取引先を重視した経営
  10. 10位:企業理念・家訓の継承、人脈・ネットワークの拡大(両者同率)

 

以上の結果を見ると、存続要因としては、「本業重視」「ステイクホルダー重視」「同族経営」が重要な要因と言えそうです。また、今後の重要な要素としては、「顧客・商品等の新規開拓・新規開発」「人材育成」「ファイナンス」が挙げられます。

 

存続要因と今後の重要な要素の両者に共通する要因は、「本業重視」「ステイクホルダー重視」「同族経営」「資金面の安定」「理念重視」などです。先の長寿企業の戦略の内容も含めると、長寿企業の経営の特徴は以下のような内容でまとめられるでしょう。

 

・同族経営を中心に据えて創業以来の理念を大切に維持しながら本業重視の経営を持続する
⇒同族経営にはデメリットもありますが、理念を持続させやすい、思い切った経営がしやすい、などのメリットがあります。

 

・経営にあたっては資金的な安定を図りながら本業に注力するが、既存の商品・サービスの改良に努めるほか新たな商品・サービス(事業)にも適宜取組む

 

・事業運営にあたってはステイクホルダーとの良好な関係を維持し、地域社会への貢献にも注力する

 

 

3-2 長寿企業の主な種類

 

①長寿企業数の分布による類型

東京商工会議所が平成27年3月に発行している「長寿企業の訓え」(長寿企業における変革・革新(イノベーション)活動)では、長寿企業のタイプがその分布傾向から3つに分けられています。

 

長寿企業数の分布による類型

 

第1類型:自然型
天然資源依存型とされるタイプです。このタイプは、長野県、新潟県、東北諸県など温泉や観光地に由来する旅館、米生産に由来する酒造等の業種の占める割合が高い地域に多く見られます。

 

第2類型:伝統産業型
長い歴史を経て育成されてきた織物、木工細工、和菓子、その他各種の工芸品などを生業とするタイプで、京都府、石川県などに多いです。

 

第3類型:近代的産業型
このタイプは近代的産業の比率が比較的高い地域に多く見られます。東京都、大阪府、愛知県などが代表的です。

 

なお、、長寿企業の数では100年以上かつ200年未満の企業が大半を占めており、特に明治維新期以降に大都市圏で創業した企業が圧倒的に多くなっています。

 

②変革姿勢による類型

また、先の東京商工会議所の「長寿企業の訓え」では長寿企業の変革に対する姿勢に基づいた類型として(変革の程度に応じて)、4つのタイプを示しているのです。

 

変革姿勢による類型

 

類型1 伝統重視型
先代までも変革については相対的に消極的でその実現度は低く、当代においても変革の程度が相対的に低いグループになります。つまり、このタイプは多少の変革を実践してきているものの、伝統重視の経営のため変革行動は弱いです。

 

類型2 変革活動定着型
このタイプは先代までは相対的に変革を積極的に進めてきたが、当代になり変革の程度を下げた長寿企業のグループになります。つまり、このタイプは当代になり、先代までの変革を定着させるためにあえて変革行動を抑制した企業です。

 

類型3 変革活動移行型
このタイプは先代までが変革に比較的消極的でしたが、当代になってから変革を積極的に進めている企業になります。つまり、このタイプは変革へと進むためにギアチェンジした変革移行中の企業です。

 

類型4 変革活動継続型
このタイプは先代までも変革に積極的であり、当代になっても変革に積極的に取組んでいる企業になります。

 

100年以上の業歴を重ねて様々な環境変化に対応してきた長寿企業では、変革への取組が多く見られますが、その取組方は経営者の理念や企業の状況などにより各々の企業で異なります。

 

 

4 長寿企業の事例と経営のポイント

長寿企業の事例と経営のポイント

 

長寿企業が事業を継続させるためにどのような経営を行ってきたのか、事例を通じてその経営の特徴や重要ポイントを確認しましょう。

 

なお、事例の内容は各企業のサイトと以下の情報元を参考にしています。

 

  • ・4-1~4-4まで:東京商工会議所の「長寿企業の訓え」
  • ・4-5:信金中央金庫 地域・中小企業研究所の「産業企業情報2021-4」

 

 

4-1 伝統を次代に生かす長寿企業

長寿企業は変革意識を持ちながら、創業時から今日までに蓄積した信用や技術等を活用・応用していますが、大切なコアの部分については「変えず」「守り抜く」経営で継続している企業も多いです。

 

●企業概要

 

企業名:株式会社キタニ
所在地:東京都目黒区目黒本町
創業:1713年(正徳3年)
資本金:3,480万円
事業内容:医薬品卸売販売業・医薬品小売販売業

 

●経営・事業の特徴

 

・創業300年を超える同社は、家庭薬で有名な「喜谷實母散」(きだにじつぼさん)を製造する企業

 

・實母散の製造会社は、昭和後半までは全国に200社程度存在していたが、今は富山、奈良など10社程度と減少している

 

・現社長は先代と同様に、實母散の伝統を守りつつ、製造機械の自動化や新鋭化等に取組んできたほか、剤形のリニューアル等も推進している

 

・法規制の複雑化、新製品開発の負担増、原料調達の困難さなど、経営環境が厳しさを増す中、同社は錠剤を小粒化し飲みやすくするために、糖衣錠からフィルムコーティング錠への改変などの変革に努めている

 

・現社長は、次代に事業を上手くバトンタッチできるように、「中核の『實母散』販売を中心に経営に取り組んでいく」と決意している

 

●長寿となった経営のポイント

 

・優れたコア事業の継承
⇒家庭薬として普及に成功してきた實母散事業も今では市場が縮小傾向にあります。その厳しい環境の中、同社は製造機械の自動化や新鋭化、錠剤の改変などによる改革・変革で事業を継続させようと努めているのです。

 

・身の丈に合った変革の推進
⇒医薬品業界では法規制の変更、新医薬品の登場などの環境変化も激しいため、新製品開発、新規事業展開や業態の変更などの変革も必要になります。しかし、同社は大掛かりな変革ではなく自社の状況に即した変革に留め、同業者が減少する中で事業を継続させてきました。

 

●今後の課題

 

・異なる次元の変革の必要性
⇒實母散事業を継続させるためには、これまでとは違ったマーケティング戦略の導入も必要です。特にWEBを通じた販売促進とチャネルの構築などには注力することが望まれます。

 

また、實母散事業以外に成長の柱となる事業の育成を進めるべきでしょう。生薬で培った知識・経験を他の分野にも活用することは十分可能なはずです。

 

 

4-2 危機をチャンスとして変革する長寿企業

新製品・新技術の登場や法規制の変更等の外部要因により、既存事業がピンチに陥るケースは多いですが、そのピンチをチャンスとして変革に取組み長寿企業に至った企業も存在します。

 

●企業概要

 

企業名:丹波屋株式会社
所在地:東京都中央区日本橋横山町
創業:1690年(元禄3年)
資本金:1千万円
事業内容:ファッション・生活雑貨の卸売商社

 

●経営・事業の特徴

 

・初代金井五郎兵衛が煙管(きせる)問屋として、丹波屋を1690年に創業

 

・1872年に紙タバコが商品化され普及するにつれ、煙管の需要は次第に減少。この状況を受け14代金井五郎兵衛現会長が1973年に喫煙具からギフト・ファッション関係を中心とする生活雑貨問屋へ業態を変更した

 

・現在、小売業を対象とした会員制卸売業を行っており、提案型の店舗運営のほかネット販売にも注力している

 

・「店はお客さまのためにある。お客様が喜ばれることをやればいい」「卸売業の看板だけは下げない」などの経営方針で今日まで看板を変えずに事業を存在させている

 

●長寿となった経営のポイント

 

・勇気ある業態の変更
⇒主力商品だった煙管の需要が減少したため、同社はこのままでは事業が継続できないと判断して生活雑貨問屋に業態を変更しました。これまでとは全く異なる分野への業態変更はリスクも大きいですが、思い切って決断されその後の50年へと繋がっています。

 

・理念重視の経営
⇒同社は会員制の卸売業として、同社にしか扱えないような商品を取揃え、既存の取引小売業者の立場を大切にするという顧客第一の経営理念に基づき独自性の高い卸売業としての看板を守り続けているのです。

 

 

4-3 改革を積極的に取組む長寿企業

ここでは、当代経営者が先代までの経営方法を変えて、経営改革を進めるとともに社員にやる気を出させて業績を向上させている企業の事例を紹介しましょう。

 

●企業概要

 

企業名:株式会社ノグチHD
所在地:東京都千代田区内幸町
創業:明治31年5月22日
資本金:7,050万円
事業内容:ノグチマテリアル株式会社(ビル建材事業)と株式会社日本環境エンジニアリング(環境事業)の運営

 

●経営・事業の特徴

 

・明治31年に初代野口茂助氏が建築用金物および土建鉱山鉄道用の各種機械工具金物、雑貨製業の卸業として開業

 

・事業基盤は地方問屋や下請、建築金物メーカー等を主要取引先とした販売業。200社を超える仕入先メーカーから建築・工事資材等を、200社を超える有力現場金物店、工事店様を通じて、デベロッパー、ゼネコン、建設会社等へを提供している(工事監理も提供)

 

・現社長の野口茂一氏が同社に入社後、インターネットの普及に対応するための通販事業、商業施設・ビルやマンション等の建築需要の増加に対応するためのビル建材事業、従来の金物商でなく建材商社などの新しい顧客を開拓するための特需部、を立ち上げるといった事業構造の改革が推進された

 

・商品の流通という問屋業務だけではコスト競争に陥るため、付加価値を高めた自社ブランドの構築に向け商品開発部を設置するといった改革も実施されている

 

・同社は改革の実現のために、社長と部署全員による意見交換を通じた事業計画の策定、計画に基づく事業の実行、実施後の確認・改善といったPDCAサイクルを回す仕組みを導入

 

・同社は、顧客、仕入先、自社の「三位一体」「共存共栄」の理念を堅持しながら「創意を持って道を切り開こう」、「誠意を持ってことにあたろう」、「努力をもって日本一を目指そう」という行動指針を示し、改革活動を推進している

 

●長寿となった経営のポイント

 

・事業継続の危機となる環境変化に対応するための改革の推進
⇒各業界で大きな流通構造の変化が生ずることは少なくないですが、その変化に対応しなければ既存の事業は先細りし衰退する可能性が高いです。しかし、ノグチはその変化のリスクを理解し対応するために事業構造等の改革に勇気をもって進めました。

 

・改革のための組織の整備と運用
⇒改革・変革は経営者が陣頭指揮を執って組織を動かすことが不可欠ですが、同社はそれを実行しています。特に改革等の遂行には適切な組織編成とマネジメントが必要ですが、同社は従業員のやる気を起こしながらそれを実現しました。

 

・理念を大切にする経営
⇒同社は、三位一体や共存共栄といったといった経営理念や行動指針に基づく経営を重視しています。こうした会社・経営者の思いが従業員に浸透することで困難な改革等も成功に結びつきやすいです。魂の入っていない改革・変革活動は長続きせずに失敗に終わるケースが少なくありません。

 

 

4-4 時代の流れや顧客の声に基づいて変革する長寿企業

市場動向の変化に対応するための変革、顧客の声からニーズを取り込むための変革などにより、他社との差別化を図り長寿企業に至る企業も見られます。

 

●企業概要

 

企業名:ホワイトローズ株式会社
所在地:東京都台東区寿
創業:1721年(享保6年)
資本金:3,500万円
事業内容:高級ビニール傘等の製造販売

 

●経営・事業の特徴

 

・享保6年、甲斐の武田源勝政氏が江戸駒形に出て煙草商人となり、初代武田長五郎と名乗って同社が始まる。四代目武田長五郎が刻み煙草の保存箱で使われていた油紙により雨具、雨合羽を作り雨具商へと転向。五代目の時に幕府御用となり、大名行列の雨具一式を納入できるほどに発展した

 

・6代目が本格的な和傘問屋としての事業を展開。岐阜など各地の和傘を扱い、国内屈指の和傘問屋となる。7・8代目では商品の幅を広げて人力車、天幕、洋傘も扱う

 

・戦後、当時主流の綿製傘には雨漏りや色落ちという欠点があったが、9代目の須藤三男氏はそれを補うビニール製傘カバーを開発。それは当時としては高級品だったが大ヒットして、傘屋として戦後の復興を遂げた

 

・綿傘からナイロンやポリエステル製の傘が普及するに連れて傘カバーの需要も激減したため、須藤三男氏はビニールフィルムを直接傘骨に張るビニール傘を考案。その開発は困難だったが、特殊な接着技術の活用や配合品の使用により、同社は世界初のビニール傘を完成させた

 

・ビニール傘は国内主流の布傘の競合品のため国内販売が困難だったが、アメリカでの販売に成功したことがきっかけとなり、国内でも普及し始めた

 

・昭和40年代以降は、ビニール傘の急速な普及が進み多数の競合商品の登場で競争が激化したため、同業他社が次々に廃業するという厳しい状況となった

 

・この厳しい環境の中、同社は顧客の要望に応える製品を開発し他社のとの差別化に取組む。街頭演説などで、「透明で丈夫なビニール傘がほしい」との要望に応えて開発した高級ビニール傘「カテール」。宮内庁へ納めている「縁結」、ウェディング傘「セレブレイン」、特大透明傘「テラボゼン」など、ユニークな高級ビニール傘を開発している

 

●長寿となった経営のポイント

 

・柔軟な発想と事業化への行動力
⇒歴代の社長は時代の流れを読み取り、その流れに上手く乗れるように柔軟な発想を行い、それを具現化するための取組を実行してきました。この発想と行動力が事業運営を担う経営者には不可欠です。

 

・困難に立ち向かう強靭な意志
⇒長年の経営で企業は非常に厳しい状況に追い込まれるケースも少なくないですが、同社はその困難に負けずに立ち向かっています。困難な状況を見極め、打開策を粘り強く実施する強い意志が長寿経営には必要です。

 

・環境や顧客の動向に基づき他社との差別化を図る経営
⇒既存の業界では様々な外部要因により競争が激化しますが、そこで勝ち残るためには他社との差別化が有効となります。同社は時代の変化を読み取って他社より先んじて新商品を投入する、特定の顧客ニーズを満たす商品を開発して競争を回避するという差別化で会社を存続させています。

 

 

4-5 危機対応力を高める経営を重視した長寿企業

様々な経営危機に対してその対応力を増して乗り切る長寿企業の事例を紹介しましょう。

 

●企業概要

 

企業名:株式会社にんべん
所在地:東京都中央区日本橋室町
創業:元禄12年(1699年)
資本金:-
事業内容:鰹節および加工食品の製造・販売

 

●経営・事業の特徴

 

・創業当時から受け継がれる「鰹節の価値」を「伝承」しつつ、新たな食文化を「創造」し多くの人々へ伝える「融合」に取組むという独自の経営を行う

 

・製法や品質を守りながら業界の常識を変える画期的な商品を開発(「つゆの素」や、削り節を小分けに包装した「フレッシュパック」等の開発)

 

・だしを身近で味わえる体験型店舗の設置。また、だしの新たな魅力を引き出した料理を試せる場所として、「日本橋だし場はなれ」を出店するなど、時代の変化に即した挑戦を続ける

 

●危機への対応

 

・幕末から明治にかけての混乱期に、徳川幕府などへ納めていた御用金や売掛金などが回収不能となる危機に直面
⇒平時における新商品・サービスの開発・提供による利益の増大や商品券の発行により十分な資金を蓄え、それで資金繰り・収益基盤をともに安定させて危機を脱出しています。

 

・根拠のない中傷記事に誘導された大勢の群衆が店へ押しかけ商品券を現物と交換するように迫るといった大騒動が発生
⇒日頃の同業者・地域との良好な関係から、彼らの支援で鰹節の現物が用意でき商品券との交換ができました。商品券を上質な鰹節と交換したことで不安を払拭し同社の信用度は逆に上昇しています。

 

・関東大震災により店舗が焼失
⇒同業者などが新天地の築地へと移転していくなか、同社は顧客の近くで再起を目指し、1カ月後には仮店舗を設けて営業再開、翌年には同地(日本橋)にて新店舗を再建されました。

 

・東京空襲により店舗が焼失
⇒戦後の物資不足の下、鰹節以外の、鰹でんぶ、乾物類、国産ウイスキーなど様々な商品を販売しながら店の再興に取組み実現しています。

 

●長寿となった経営のポイント

 

・チャンスを広げ、ピンチを乗り切る経営
⇒江戸時代にあっては加賀前田侯をはじめ、諸侯の乾物御用を請負い、幕府からは勘定奉行から御用達を請けています。明治時代にあっては日露戦争の鰹節の供給を一手に引き受けるなど、機会を捉えて事業を拡大させてきました。

 

一方、大きな危機に直面した際には、潤沢な資金、ステイクホルダーとの関係、商品の拡大や開発、など危機に対応する経営で困難な時期を乗り切って今日に至っています。

 

・「伝承」「創造」「融合」の経営理念の堅持
変えてはいけない「本枯鰹節」という味・品質を守りつつ、その本枯鰹節を人々により味わってもらうための商品創造に努め、さらに伝える努力(顧客とのコミュニケーション)も怠らない経営方針が長寿に貢献しています。

 

 

5 長寿企業に至る経営のポイントと注意点

長寿企業に至る経営のポイントと注意点

 

最後に長寿企業のように長期に渡って会社を存続させるための特に重要な経営のポイントと注意点まとめておきましょう。

 

長寿企業に至る経営のポイントと注意点

 

 

5-1 伝統と創造の併用

長寿企業には、その会社の存在意義となるよう理念があり、それを変えてはならないものとして堅持しようとする文化が見られます。しかしながら既存事業はその時々の環境変化により通用しなくなるケースも多いです。

 

そのため本質的な部分は変えずに、事業を環境に合わせて変化させる、すなわち商品・サービスの内容を変更したり、提供の仕方を変えたりして対応させるという改革・変革が必要になります。

 

伝統として受け継がれる商品・サービスの特徴を堅持しつつも、環境変化に対応するため用途の幅を広げたり、異なる市場(顧客)へ投入したりするといった挑戦的な取組も欠かせません。

 

そのため伝統だからといって昔からの商品・サービスだけの提供にこだわって成長の機会を失ったり、事業を先細りさせたりしないように注意すべきです。昔から人気の高い伝統の商品等であっても代替品や新技術等の外部要因により自社品の価値が減少する可能性のあることを忘れないようにしましょう。

 

 

5-2 大きな危機への対応

長寿企業の最大の特徴はリスク対応力が極めて高い点です。業歴10年といった会社でも一時的な不況のほか、販売先、仕入先、従業員や資金などに関する様々なリスクに直面します。

 

しかし、長寿企業のような何十年、100年超といった業歴の長い会社の場合、戦争、大地震、大型台風、テロ、大不況(リーマンショック等)やパンデミックなどの大きなリスクに晒される可能性も高いです。

 

つまり、会社設立後自社を長続きさせるには日々のリスクのみならず突発的に生じる大きな危機に備えておかねばなりません。特に大きな危機見舞われると1年や2年といった期間で業績が大きく落ち込む可能性も高まります。

 

そのため資金的な余裕が必要です。長寿企業の内部留保の割合は他の企業群と比べ高く、長寿企業によっては一定の資金確保の必要性が伝統して受け継がれるケースも見られます。

 

もちろん資金の確保だけでは危機に対応できないことも多いため、昨今ではBCP(事業継続計画)を策定し様々な影響度の大きいリスクに備える動きも活発です。

 

会社設立から間もない企業が完成度の高いBCPを進めるのは困難ですが、自社の状況を踏まえて少しずつでもリスク対応力を付けるように取組みましょう。

 

 

5-3 三方よしの推進

長寿企業には「三方よし」の経営が多く見られます。三方よしとは、近江商人の経営理念である『売り手によし、買い手によし、世間によし』の経営哲学です。

 

これは、自社の利益や発展のみを追求するのをよしとせず、顧客・取引先・社員・株主・地域社会などにもメリットのある取引を行う経営と言えます。現代では、企業が持続可能で豊かな社会を実現していくという「コーポレート・サステナビリティ」が重要視され始めましたが、三方よしにも共通する部分が多いです。

 

顧客や社会にはそのニーズを満たして価値の高いものを提供して、業界や同業者等の発展にも寄与しつつ、取引先、株主や社員などでは利益を分かち合い、ともに豊かになることを目指すことで、企業は社会的に求められる存在になります。

 

つまり、三方よしの経営を実践することが企業を社会に必要とされる存在へと導き、結果として長寿も可能となるのです。

 

 

5-4 変革に挑戦する勇気と実行力

時代の流れとともに事業環境は絶えず変化し、時には大きなうねりとなって襲ってくるため、継続してきた事業も停滞することがあります。そのため既存事業に大きなダメージを与えるような変化に対しては迅速に対策を打たねばなりません。

 

対策の取り方は変化の内容次第ですが、時には商品・サービスの内容を大幅に変えたり、販売方法や提供の仕方を根本的に改めたりすることも必要です。従って、既存のビジネスモデルを大きく変えるという、リスクの大きな意思決定に迫られるため経営者としての勇気が求められます。

 

また、ビジネスモデルを改めて実行していくには業務システムもそれに合わせて変更する必要があるため、手間やコストがかかるほか推進していくためのリーダーシップも不可欠です。特に既存業務に執着する従業員の理解を得て取組ませる指導力が求められます。

 

リーダーである経営者が改革・変革の陣頭指揮をとり、従業員とともに改革等を進めることが重要です。決して、従業員に変革行動を丸投げしないようにしましょう。

 

 

5-5 組織の整備と企業文化の醸成

変革の推進やピンチの脱出などには、従業員の協力や組織の力が不可欠となるため、それに向けた組織体制を整備し運用・管理できることが重要です。

 

いくらよい変革のアイデアや事業構想などがあったとしても、それを具現化・実現させるためには従業員や組織の力が必要となります。彼らの協力があってこそ変革を進めることが可能となり、適切な組織体制が整ってこそそれを効率的・効果的に進められるのです。

 

特に従業員がやる気を起こさせるような組織にすることが重要ポイントになります。変革にあたり既存の業務方法や組織体制に執着する従業員などではモチベーションダウンが見られること少なくありません。やる気のない従業員が多い組織では変革が成功する可能性は低いです。

 

こうした状況を回避するために、経営者は事業環境に危機感を抱き事業の改革・変革の必要性を従業員に示して共有することが第一に求められます。そして、変革を遂行するための仕組みや組織体制を従業員と一緒に考えて共に進めて行くマネジメントが必要です。

 

さらに変革が実現して得られた成果を従業員と分かち合うとともにこの動きを継続できるようにする企業文化を作っていくことが求められます。経営者が指示しなくても、従業員や組織が自ら変革に向けた行動を取れるようにすることが、変化やピンチに強い企業へ昇華させるポイントとなります。


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