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  <    <  起業・会社設立時から考えていきたい「カスタマーハラスメント対策」

起業・会社設立時から考えていきたい「カスタマーハラスメント対策」

最近、飲食店などでのイタズラや悪ふざけが動画サイトに投稿されるようになりました。ビジネスでは、顧客等から嫌がらせや不当なクレームなどの「カスタマーハラスメント」を受けることが少なくありません。

 

企業がこのハラスメントの対応を誤れば事業が危うくなりかねため適切な対応が必要ですが、起業・会社設立したばかりの企業においてもそれは同様です。そこで今回は、起業・会社設立時から取り組んでおきたい「カスタマーハラスメント対策」について解説します。

 

カスタマーハラスメントの内容、その現状、企業が被るリスク、取る必要のある対策のポイントや事例などのほか、その対策を取り入れつつ起業・会社設立していく際の重要点も解説するので、参考にしてみてください。

 

 

1 カスタマーハラスメントの概要とその現状

カスタマーハラスメントの概要とその現状

 

ここでは、カスタマーハラスメントの定義、現在の状況、迷惑行為等のタイプなどを確認してみまましょう。

 

1)カスタマーハラスメントの定義

 

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、「カスタマーハラスメント」は以下のように定義されています。

 

「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

 

この定義での「顧客等」は、実際に商品・サービスを利用した者のほか、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も対象です。

 

また、「当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして・・・社会通念上不相当なもの」の内容は、顧客等の要求内容が妥当か否か、当該クレーム・言動の手段・態様が「社会通念上不相当」か否かを総合的に勘案して判断する必要があることを指します。

 

従って、顧客等の要求の内容が著しく妥当性を欠く場合、その実現のための手段・態様がいかなるものでも、社会通念上不相当とされる可能性が高いです。他方、顧客等の要求の内容に妥当性がある場合でも、その実現のための手段・態様の悪質性が高い場合、社会通念上不相当とされる可能性が高くなります。

 

「労働者の就業環境が害される」とは、労働者が、人格や尊厳を侵害する言動を受けて身体的・精神的に苦痛を強いられ、就業環境が不快なものとなったことで能力の発揮に重大な悪影響が発生する等の当該労働者が就業する上で看過できないほどの支障が生じることを意味します。

 

その上記に該当するような例は以下の通りです。

 

●「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例

 

  • ・企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
  • ・要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合

 

●「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例
(要求内容の妥当性に関係なく不相当とされる可能性が高いもの)

 

  • ・身体的な攻撃(暴行、傷害)
  • ・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
  • ・威圧的な言動
  • ・土下座の要求
  • ・繰り返される、しつこい言動
  • ・拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
  • ・差別的な言動
  • ・性的な言動
  • ・従業員個人への攻撃、要求(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合等)
  • ・妥当性のない商品交換要求
  • ・金銭補償の要求
  • ・謝罪の要求(土下座を除く)

 

上記のマニュアルではこれらの行為を「カスタマーハラスメント」として捉えています。

 

2)カスタマーハラスメントの具体的な行為

 

上記のマニュアルでは、顧客と接することの多い業種の企業12社からヒアリングにより、実際に企業が受けたハラスメントに該当する行為を、以下のようにまとめています。

 

時間拘束 ・一時間を超す長時間の拘束、居座り
・長時間の電話
・時間の拘束や、業務に支障を及ぼす行為
リピート型 ・頻繁に来店し、その都度クレームを行う
・度重なる電話
・複数部署にまたがる複数回のクレーム
暴言 ・大声、暴言による執拗なオペレーターへの責め
・店内で大きな声をあげる等により秩序を乱す
・大声での恫喝、罵声、暴言の繰り返し
対応者の揚げ足とり ・電話対応での揚げ足とり
・要求の繰り返し後、通らない時は言葉尻を捉える
・同じ質問を繰り返し、対応ミスが出たところを責める
・企業側の落ち度に対する一方的なクレーム
・当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な攻め立て
脅迫 ・脅迫的な言動、反社会的な言動
・物を壊す、殺す等の発言による脅し
・SNSやマスコミへの暴露をほのめかした脅し
権威型 ・優位な立場を利用した暴言、特別扱いの要求
SNSへの投稿 ・従業員の氏名などのインターネット上への公開・投稿
・企業や社員の信用を棄損させる行為
正当な理由のない過度な要求 ・言いがかりをつけて金銭を要求
・私物(スマートフォン、PC等)の故障についての金銭要求
・遅延等を理由とした運賃の値下げの要求
・難癖をつけキャンセル料を払わない、代金の返金を要求する
・備品の過度な要求(歯ブラシ10本要望する等)
・入手困難な商品を過剰に要求する
・対応が不可な内容の要求
・運行ルートへのクレームや、それに伴う遅延への苦情
・契約内容を超えた過剰な要求
コロナ禍に関連するもの ・マスク着用、消毒、窓開け等に関する過剰な要望
・マスクをしていない人への注意に関する過度な要望
・マスクの着用拒否
セクハラ ・従業員へのつきまとい
・従業員へのわいせつ行為や盗撮
その他 ・事務所(敷地内)への不法侵入
・正当な理由のない業務スペースへの立入

 

上記のほか、ビジネスの現場では様々なハラスメントに類する行為が生じており、業務で妨害を受け損害を被るケースも少なくありません。また、そこで働く従業員が肉体的・精神的な苦痛を与えられることもあり、適正な労働が困難になることも多いです。

 

カスタマーハラスメントを放置すると、適正な事業を継続することが困難になりかねないため、適切な対応が必要とされています。

 

 

1-1 カスタマーハラスメントの状況

ここではカスタマーハラスメントの現状について紹介しましょう。

 

1)厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスタマーハラスメントの現状について以下のような内容が報告されています。

 

●企業でのカスタマーハラスメントの相談件数は、パワハラ、セクハラに続いて多く、近年増加している可能性がある

 

カスタマーハラスメントのみ「件数が増加している」の割合(3.8%)の企業が、「減少している」(2.2%)企業より高いという結果が出ており、近年増加している可能性が高いです。

 

●カスタマーハラスメントに該当する事案も増加傾向

 

また、過去3年間に各ハラスメントに関する相談があった企業のうち、カスタマーハラスメントに該当する事案があった企業の割合が92.7%と最も高く、過去3年間の該当件数の推移については、「件数が増加している」の割合(19.4%)の企業が「減少している」(12.1%)企業より高いという結果でした。従って、該当事案も増加傾向にあると考えられます。

 

●受けたカスタマーハラスメントの内容

 

カスタマーハラスメントを受けた行為の内容は「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」(52.0%)の回答が最多で、「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」(46.9%)がそれに続く結果でした。

 

ほかには、「著しく不当な要求(金品の要求、土下座の要求等)」(24.9%)、「脅迫」(14.6%)、「暴行・傷害」(6.5%)となっています。

 

2)UAゼンセン 流通部門の「悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査分析結果」から

 

下記の内容は、スーパーマーケット、GMS、住生活関連、百貨店、ドラッグ関連、専門店、家電関連の事業者の、接客対応している組合員(販売・レジ業務・クレーム対応等)に対して実施された調査結果です(回答件数:49,876件)。

 

●迷惑行為の遭遇率

 

「あなたは、業務中に来店客からの迷惑行為に遭遇したことがありますか」の質問に対して、「ある」が34,984件(70.1%)、「ない」が12,619件(25.3%)、「無回答」が2,273件(4.6%)でした。業種別では、百貨店が84.5%と最多で、次いで家電関連82.9%、住生活関連77.9%と続きます。

 

この結果では、消費財関連の業者において、7割ほどがカスタマーハラスメントの被害にあっている状況です。特にやや値の張る、知識を必要とする製品を扱う業種や大手企業などの被害が強く見られます。

 

●迷惑行為の種類

 

「あなたは、業務中に次のような来店客からの迷惑行為に遭遇したことがあるか」という質問に対する結果は以下の通りです。

 

全体:34984件、単位:%

  • 暴言:66.5
  • 何回も同じ内容を繰り返すクレーム:39.1
  • 権威的(説教)態度:36.4
  • 威嚇・脅迫:35.2
  • 長時間拘束:26.6
  • セクハラ行為:13.4
  • 金品の要求:8.1
  • 暴力行為:4.8
  • 土下座の強要:4.2
  • その他:3.7
  • SNS・インターネット上での誹謗中傷:1.2

 

上記の通り、迷惑行為での最多は「暴言」で、迷惑行為に遭遇した経験のある人の66.5%(23,268件)が、何らかの暴言を受けているという結果でした。

 

また、「暴言」の内容としては、「ブス」「ババア」などのセクハラや、「バカ」「アホ」「低能」などの人格否定に該当するものから、「殺してやる」、「車で轢くぞ」「土下座しろ」などの法的に問題になりそうな行為まで様々です。

 

こうした暴言等は従業員の心身を害しかねないため、企業としては見過ごせません。

 

●迷惑行為による影響

 

迷惑行為を受けた者の自身への影響については以下のような結果が出ました。

 

件数:34984

  • 精神疾患になったことがある:184(0.53%)
  • 強いストレスを感じた:18969(54.2%)
  • 軽いストレスを感じた:12987(37.1%)
  • 影響なし:2202(6.3%)
  • その他:329(0.95%)
  • 無回答:313(0.89%)

 

上記の通り、迷惑行為の影響の最多は「強いストレスを感じた」で、どの業種においても全回答の半数を超えています(50.0%~64.3%)。また、「軽いストレスを感じた」「強いストレスを感じた」「精神疾患になったことがある」を合計すると、どの業種でも90%超となっており、迷惑行為がいかに従業員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすかが窺えます。

 

●カスタマーハラスメントの具体例

 

先の調査では以下のようなハラスメントの例が挙げられました。

 

・全般

 

  • 「会計時に、舌打ちをしたと言いがかりをつけられ、他のお客様の前で怒鳴られた」
  • 「商品の入れ方でお客様の指示に従ったが、少しでも気に入らないと、強い言葉や態度で罵倒された」
  • 「愛想がない」「笑顔がない」と苦情を受けた
  • 「『人をバカにして笑った』と大声で罵倒され、土下座させられた」

 

・セクハラ

 

  • 「『デブ、おじさん、名指し(呼び捨て)で~やれ』とか繰り返し大声で言われた」
  • 「クレームというよりただの悪口を何回も言われた気がした」
  • 「態度が悪い、見てくれが悪いと他の従業員に大きな声で言いふらされた」
  • 「食事にしつこく誘う。体を触ったり顔を近づけたりしてくる」

 

・人格否定

 

「約2時間一方的に要求され拒否したが、馬鹿、低能、社会人失格など罵倒雑言を浴びせられた」

 

・法的に問題になり得る行為

 

  • 「話し合いの際、片手にナイフを持って、金品を要求する脅しの行為を受けた」
  • 「3年前に購入した商品が故障したと、交換を要求された」
  • 「高額商品の要望を受け提案した際に、商品の保証に対してクレームがつけられ、値引きを強要された」
  • 「買上げの履歴が確認できないと伝えると、「株主総会で名前を出す!」と言われた」
  • 「客だからといって上から目線でものを言う方が多い。商品の故障についてこちらに怒りをぶつける」

 

・長時間拘束

 

  • 「携帯の案内の点から接客態度や会社に対するクレームへ発展。長時間の電話対応(3~時間)や長時間の謝罪(2時間)となった」
  • 「なぜ出来ないのかと怒り、お客様相談室で4~5時間拘束された」
  • 「謝罪のため、ご自宅への訪問時、約9時間拘束された」

 

 

2 カスタマーハラスメントの企業への影響と対策の意義

カスタマーハラスメントの企業への影響と対策の意義

 

ここではカスタマーハラスメントが起こった場合の企業への影響や、発生に備えることによるメリットについて確認していきます。

 

2-1 カスタマーハラスメントによるリスク

カスタマーハラスメントによるリスク

 

1)業務上の損失

顧客の迷惑行為のタイプは様々ですが、それにより企業は業務妨害を被ったり、金銭の損失を余儀なくされたりすることが少なくありません。例えば、接客時の従業員の言動に言いがかりをつけて、長時間に渡るクレームを受ければ、その従業員や管理者等の業務が中断されてしまいます。

 

彼らには所定の割当てられた業務があるため、そのクレーム対応に長時間が取られれば、当然彼らの業務は滞り業務上の損失が発生するわけです。また、そうした言いがかりで商品・サービスの交換等を求められれば、それも損失となります。

 

さらに慰謝料などを請求され、応じれば直接的な金銭の損失となりますが、ケースによっては多額の賠償金等を求められることもあるのです。

 

自社に非がなくてもカスタマーハラスメントに適切に対応しないと、企業が負担しなくてよいはずの損失を被りかねません。

 

2)業績や企業価値の低下

カスタマーハラスメントの発生により他の顧客の利用が減少し、業績が悪化するというケースも多いです。店内に乱暴な言動を行う顧客が来店して頻繁に迷惑行為が行われると、他の一般的な顧客は不安に思いその店での利用を控えるようになりかねません。

 

その結果、店の業績が低下し経営が難しくなることも少なくないのです。また、最近ではインターネット上での悪口等の投稿や動画サイトへのイタズラ行為(回転寿司等での迷惑行為など)の配信などが見られるようになりましたが、それにより企業は営業上の大きな損失を被ることもあるのです。

 

例えば、陳列している商品(食品等)にイタズラされた場合、その事実が発覚すれば企業としてはそれらの商品を回収・破棄することに迫られます。また、そうした迷惑行為があった店への来店が控えられ、業績が落ちることも十分にあり得るのです。

 

さらにそうした迷惑行為が株式市場等での評価を下げることに繋がり、結果として上場企業の場合は株価が下落して企業価値を損ねることになりかねません。株価の下落は、資金調達の面で不利に働き、経営を難しくさせます。

 

3)従業員の休職・離職

ハラスメントを直接的に受けるのは主に従業員であるため、その被害の程度によっては彼らの休職・離職を増加させることもあり得ます。顧客の暴言や暴力などが従業員の心身を傷つけ、業務遂行を阻むだけでなく、その意欲も減退させ、心身のケアが必要となることも多いのです。

 

心身の疲れから病欠に繋がり、やがて退職を選択するというケースが少なからず見られます。通常の業務において、企業と従業員の関係が良好であっても、ハラスメントへ企業が適切に対応しなければ、従業員の業務遂行が困難となるほか、企業との関係も悪化していき、やがて彼らは退職を考え出すのです。

 

また、こうした退職が発生すれば、他の従業員にも悪影響(企業への不信感、業務負担の増加への懸念等)が及び、その企業へのロイヤルティが低下して離職率の上昇へ繋がりかねません。

 

4)企業イメージと人材確保への悪影響

標的にした従業員や利用顧客の個人情報、企業の業務情報のほか、従業員等に対する誹謗中傷などをネット上に公開するという迷惑行為が見られるようになりました。

 

こうした行為への防止策や対応策を講じない場合、従業員や顧客を守らない企業として、企業イメージを悪化させることになり得ます。具体的には、迷惑行為から従業員等を救済するアクションを打てない企業として評価され、企業イメージを落とすことになるのです。

 

企業イメージの低下は信用の低下に繋がり、資金調達や人材確保などの面で不利に働きかねません。人手不足の時代において、従業員を大切にしない会社は、人材確保がより困難になる可能性が高いです。

 

2-2 安全配慮義務違反の可能性

企業には、従業員が安全に働けるように配慮する義務があるため、カスタマーハラスメントにより従業員が傷つけられた場合、この「安全配慮義務違反」に抵触することになりかねません。

 

労働契約法第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と労働契約上の安全配慮義務が明文化されています。

 

従って、企業の経営者はこの法に従い、安全配慮義務を果たさねばなりません。しかし、カスタマーハラスメントなど暴力によって怪我をしたり、暴言等により精神を病んだりした場合は、企業はこの安全配慮義務を怠ったこととなり、責任が問われる(債務不履行として賠償請求等される)こともあるのです。

 

2-3 カスタマーハラスメント対策の意義

これまで確認してきたハラスメントによるデメリットを被らないためには、事前に迷惑行為などへの対応策を定め運用できることが必要になります。つまり、カスタマーハラスメント対策を講じておくことで、そのリスクに対しての回避や軽減が可能となるわけです。

 

具体的な対応策については後ほど説明しますが、その準備や運用には一定の手間とコストがかかるとともに、従業員にも多少なりとも負担をかけることになります。

 

しかし、何も対策をせずにいては、上記で確認した様々なデメリットを被りやすい状況を作ることになりかねません。残念ながら現代社会においては、様々な犯罪や不道徳な行為が頻繁に発生しており、自分勝手な行為を平然と行う人も多いです。

 

そのため企業としては、迷惑行為をする人が顧客となって来店するという前提で企業自身や従業員を守るという取組が求められます。カスタマーハラスメントによって企業が事業を継続できなくなれば、顧客や従業員の生活が脅かされことになり、地域社会にとっても大きなマイナスになるでしょう。

 

そうした事態にならないように企業は事業者としての社会的使命と従業員に対する安全配慮義務などを果たすためにカスタマーハラスメントの対策を講じる必要があるのです。

 

3 カスタマーハラスメント対策のポイント

カスタマーハラスメント対策のポイント

 

ここでは企業がハラスメントの発生を抑制する、被害を最小限度に抑えるための対策のポイントを説明しましょう。

 

3-1 経営者の認識

企業がカスタマーハラスメント対策を講じる第一歩は迷惑行為等による影響や対策の必要性を経営層が理解することです。

 

日本労働組合総連合会が2022年12月16日に発表している「カスタマーハラスメントに関する調査2022」によると、カスタマーハラスメントを受けた後の対応状況について「対応できた」が87.9%、「何もできなかった」が12.1%となっており、対応できているケースが多く見られました。

 

しかし、その「何もできなかった」の内容を雇用形態別に見ると、「何もできなかった」と回答した人の割合は、非正規雇用では18.0%、正規雇用の(10.1%)と比較して7.9ポイント高くなっています。

 

この結果は、ハラスメントへ対応するための教育等が非正規雇用者に対して十分でないことを示唆するものです。

 

また、ハラスメントを禁止する社内規則の制定や、対応マニュアルの作成、研修などのハラスメント対策の状況別にみると、「対応できる内容とできない内容を明確に説明した」については、対策が1つでも取られている職場が43.9%で、対策が全く取られていない職場(27.1%)より15ポイント以上高い結果となりました。

 

一方、「何もできなかった」については、対策が1つでも取られている職場では7.4%で、対策が全く取られていない職場(16.2%)よりも5ポイント以上低いです。

 

さらに「仕事をやめた・変えた」人について見ると、「カスタマーハラスメントへの対応に関する研修」の対策が「取られている」ケースでは8.5%、「取られていない」ケースでは67.6%となっており、勤務先のカスタマーハラスメント対策状況で大きな差が生じました。

 

以上のように企業がカスタマーハラスメント対策を講じることにより、迷惑行為等による被害の抑制や従業員への心身への負担の軽減が期待できます。経営層はこうした事実を認識し、対策の整備に努めるようにしましょう。

 

3-2 雇用管理上の講ずべき措置

厚労省では「パワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組」として、雇用管理上の講ずべき措置等を示しています。

 

具体的には、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、暴言、不当な要求等)から、従業員の就業環境に悪影響が及ばないよう、雇用管理上の配慮として、以下のような取組が望ましいとしているのです。

 

  1. 1.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  2. 2.被害者への配慮のための取組(被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行う者への対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組)
  3. 3.他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組(マニュアルの作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取組)

 

以上の内容を含めた具体的な体制づくりや運用に向けた取組を進めることが第一に求められます。

 

3-3 カスタマーハラスメントへの事前準備と対応

先の厚労省の対策マニュアルでは、企業がカスタマーハラスメント対策の基本システムを構築するために、ハラスメントに備える事前準備や実際に起こった場合の対応として、以下の取組が推奨されています。

 

1)事前準備

 

①基本方針等の明確化と従業員への周知・啓発 ハラスメントから、企業が従業員を守るという基本方針や基本姿勢を明確に示し、従業員の対応方法を従業員に周知し啓発・教育する
②従業員のための相談対応体制の整備 ハラスメントを受けた従業員が相談できるように相談対応者を選定する、または相談窓口を設置し、従業員にそのことを周知する
相談対応者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるように企業がマネジメントする
③対応方法やその手順の策定 ハラスメントへの対応を迅速かつ適切に処理するための対応体制や方法等を事前に設定する
④従業員等への教育や研修 迷惑行為や悪質なクレームに対しての、自社でとる具体的な対応などについて、従業員を教育する

 

2)実際に起こった際の対応

 

⑤事実関係の正確な確認と事案に対する対応 ハラスメントに該当するかについて正確に判断するため、顧客、従業員等からの情報を基に、その行為が事実か否かであるか、を正確な証拠や証言に基づいて確認する
確認した事実に基づいて、「商品に瑕疵がある」、または「サービスに過失がある」場合は謝罪し、商品の交換や返金に応じる。瑕疵や過失がない場合は要求等を拒否する
⑥従業員に対する配慮措置 被害を受けた従業員に対して適正な配慮を行う。繰り返される不当な行為には一人で対応させないで複数名や、組織的に対応する。また、メンタルヘルスの不調などに適切に対処する
⑦再発防止のための取組 同様の問題の再発防止のため、定期的に取組内容を見直したり改善したりするという、継続的な改善活動を行う
⑧①~⑦までの措置と併せて講じる措置 相談者のプライバシーを保護するための措置を講じ、従業員に周知する
相談したこと等を理由とした不利益な取扱いを禁止する旨を定め、従業員に周知する

 

3-4 具体的なハラスメント対策

先に示した事前準備の内容を含め、対策の具体的な内容を説明しましょう。

 

1)基本方針等の明確と従業員への周知等

企業がカスタマーハラスメントに適切に対応していくには、ハラスメントに対する企業の基本方針や基本姿勢を明確に定め、それを従業員に周知し、実行できるように啓発していかねばなりません。

 

特に企業の経営トップが、ハラスメント対策への取組姿勢を明確に示すことが重要です。トップの口から迷惑行為等を防ぐ、減らす、従業員を守る・負担を軽減する、といった方針や姿勢を示すことで、対応の重要性への認識と安心感が従業員の中で醸成されやすくなります。

 

また、従業員が対応力を身につけ実行していくためのマニュアルによる学習や研修等での訓練などへの積極的な参加が期待できるようになるのです。その結果、実際にトラブルが発生した場合にスムーズな対応や処置が可能となり、直接対応する従業員の負担軽減にも役立ちます。

 

なお、基本方針に含める要素としては、以下のような項目が挙げられるでしょう。

 

  • ・カスタマーハラスメント(以下「ハラスメント」)の内容と対応する意志
  • ・ハラスメントが、自社にとって重大な問題である点
  • ・ハラスメントを放置しないという姿勢
  • ・ハラスメントから従業員を守るという意志
  • ・従業員の人権を尊重して対応する姿勢
  • ・常識の範囲を超えた要求や言動を受け場合、周囲に相談することを要請
  • ・ハラスメントには企業全体で毅然とした態度で対応する点

 

2)従業員のための相談対応体制の整備

カスタマーハラスメントを受けた従業員が一人で問題を抱え込まないように気軽に相談できるために、以下の相談対応体制を整えます。

 

  • ・相談対応者を選定する、または、相談窓口(相談担当部署等)を設置する
  • ・そのことを従業員に広く周知する

 

●相談対応者

 

なお、相談対応者は、ハラスメントが実際に発生している場合のみならず、発生の可能性の高い場合や、ハラスメントに該当するかどうか判断がつきにくい場合も含めて、従業員(相談者)からの相談に応じて迅速かつ適切に対応することが必要です。

 

また、相談対応者は、相談者の心身の状況や受け止め方などの認識にも配慮しつつ慎重に相談に応じなければなりません。そして、こうした対応を実現するためには、人事労務部門や法務部門、外部関係機関(弁護士等)と連携できる体制の構築も重要です。

 

具体的な対応方法をまとめたマニュアルを整備するほか、相談対応者向けの定期的な研修等も行うようにしましょう。

 

●相談対応者の人選

 

従業員からカスタマーハラスメントの相談に応じる相談対応者は、一般的に相談者の上司、現場の管理監督者が担うケースが多いため、彼らが第一の候補になります。

 

その理由は、日常業務の状況に精通している点や、何か問題が生じた場合に現場に急行しやすい点、などが挙げられるからです。直接の上司等は彼らの身近な存在で、現場に足を運ぶことも用意であることから適任と言えるでしょう。

 

ただし、相談対応者を現場の上司だけでなく、彼らを支援したり指導したりする相談窓口としての部署の設置も必要に応じて整備するのが望ましいです。なお、そうした相談窓口はパワーハラ・セクハラ等を取り扱う総合的なハラスメント相談窓口として設置するケースも多く見られます。

 

そして、相談窓口は問題解決にあたり、自社の人事・労務・法務等の部署のほか、外部機関との連携を取りながら対応することも求められているのです。

 

●相談対応者の役割

 

相談対応者の役割は、相談の受付(一次対応)や、発生した事実の確認、関係部署への情報共有等が主な内容です。事実確認の方法は、相談者及び他の従業員からの状況確認や、店舗等に録画や録音が残っている場合に相談者とともに内容を確認すること、などが挙げられます。

 

その後は、確認した内容に応じて関係部署と連携しつつ、顧客等への対応方法の検討と実施、相談者へのフォロー、といった対応です。

 

●相談対応者への教育

 

相談対応者は上記で確認した役割を果たす必要があるため、彼らには適切な教育を施していかねばなりません。相談の状況により、その場でカスタマーハラスメントに該当するかの判断やそれに応じた顧客対応が必要とされることもあります。

 

そのため、相談対応者は社内で定められた基準や対応手順を把握し、ケーススタディ等を通して対応方法を実際に行えることが必要です。従って、企業はそれを可能とするために、相談対応者に対して適切な教育を施していかねばなりません。

 

3)対応方法や手順の策定

(1)現場での初期対応の方法やその手順

 

従業員がカスタマーハラスメントを受けた場合に慌てず適切な対応が取れるように、対応方法等を決めておくことが必要です。

 

顧客等の迷惑行為も様々なタイプがあり、各企業の業務内容や対応体制等も異なることから、その対応方法は各社の状況に合わせた設定が求められます。現場の従業員や外部の支援機関などの意見を踏まえて、対応方法、対応例やそれらの手順を決めていきましょう。

 

その策定においては、対応の柔軟さや迅速さを重視するほか、顧客等への対応は複数名を基本として従業員一人で対応としない、行為が深刻な場合は一次対応者に代わって現場監督者等が対応する、などの手順を明確することが必要です。また、従業員の安全への配慮も含めなければなりません。

 

ほかにも企業の事情により現場監督者等がその場にいないようなケースもあるため、その場合でも現場従業員だけで適切な対応が取れる方法を考案し従業員に周知しましょう。

 

なお、顧客対応が不適切に実施された場合、顧客の態度がより過激になることもあるため、関係する従業員には基本的な対応ができるように教育することが求められます。

 

(2)報告・相談、指示・助言等の内部手続の方法や手順

 

●本社や本部との連携が必要なケース

 

犯罪行為等に該当する事案では、法的手続、警察・弁護士等との連携が必要な顧客対応もあるなど、現場対応だけでは、解決できないケースも少なくありません。その場合、本社や本部と連携した対応が必要となるため、事前に本部・本社へ報告する場合の事項や報告手続を決めておくことが不可欠です。

 

例えば、本社や本部への一般的な報告の流れとしては、「顧客対応を行った従業員」から、「相談を受けた現場監督者、または相談窓口」へ、そして、状況に応じてそこから「本社・本部」へ情報伝達し、「指示を仰ぐ」という手順になるでしょう。こうした体制と手順を事前に決めておくことが重要です。

 

【本社や本部まで報告・相談する場合の判断基準の例】

  • ・顧客等とのやり取りで訴訟手続が必要となりそうな場合
  • ・警察、地方自治体等、社外の組織と連携が必要となりそうな場合

 

【本社や本部まで報告・相談する場合の相談先の例】

  • ・顧客等から損害賠償請求があった際は法務部門に相談する
  • ・相手の行為が刑法犯(強要罪等)に該当する可能性がある場合は、法務部門、人事総務部門のほか、警察や弁護士等に相談、連絡、通報等する

 

以上のように自社の組織体制にマッチしたエスカレーション体制(上層に指示を仰ぐ、対応を委ねる等の対応が可能となる体制)の整備が望まれます。

 

4)社内の対応ルールに関する従業員への教育・研修

迷惑行為や悪質なクレームに対応するためには、日頃から研修等を通して従業員を教育しておくことが重要です。研修等は原則、全員受講とし、かつ定期的に実施することが望まれます。

 

中途入社の従業員や顧客対応するパート・アルバイトなどに対しても入社時に説明して研修等を受けさせる制度とすることが重要です。教育内容には、経営トップのメッセージ、事前に定めた対応方法や手順、顧客等への接し方のポイントといった接客実務に関する内容を盛り込むようにします。

 

例えば、以下のような内容です。

 

  • ・悪質なクレームやハラスメントの内容(その定義や該当行為の例、正当なクレームとの違い 等)
  • ・カスタマーハラスメントの判断の仕方(判断基準やその事例)
  • ・パターン別の対応方法
  • ・苦情対応の基本的な流れ
  • ・顧客等への接し方のポイント(謝罪、話の聞き方、事実確認の注意点 等)
  • ・記録の作成方法
  • ・各事例における顧客対応での注意点
  • ・ケーススタディ

 

なお、過去に自社で発生した事案、その際の経験等を踏まえて事例やケーススタディとしてその内容に含めると、その企業にとってより効果的な内容になるでしょう。

 

また、階層別(対応者、相談対応者、経営層)の教育・研修も重要です。特に経営層は、カスタマーハラスメントによる事業への影響の認識や、優先順位を判断した上での対応、などが求められることを研修で理解を深めましょう。外部講師による研修等は経営層の意識改革を図る上でも有効です。

 

5)事実関係の正確な確認と事案への対応

実際の顧客対応で最も重要となるのが「事実関係の正確な確認」になります。顧客等からの主張が、正当なものか、言いがかりのような悪質なクレームなのか、などを判断する必要があり、そのためには顧客等の主張をもとに、その内容が事実であるか否かを、確かな証拠・証言に基づいて確認しなければなりません。

 

事実か否かの判断については、個別に状況を判断しないで周囲や管理者に相談するなど、複数名で判断することが望ましいです。例えば、「今すぐここで答えを出せ」と要求されても、明らかに判断がつくような状況を除き極力その場での回答を控えるようにします。

 

なお、顧客等の主張が事実と異なる場合には、その点を指摘するとともに、それが事実であるなら企業として適切な対応を取る検討も必要です。

 

従業員から相談対応者または相談窓口対応者が相談を受けた場合、その事実関係を整理する流れとして、以下のような内容が挙げられます。

 

・一般的な事実関係の整理・判断フロー

  1. ①時系列で、発生した状況、事実関係を様々な情報から正確に把握する
  2. ②顧客等が要求している内容を把握する
  3. ③顧客等の要求内容の妥当性を検討する
  4. ④顧客等の要求の手段・態様が社会通念上相当であるかどうか検討する

 

なお、事実関係を確認する場合、トラブルの状況を録音・録画された証拠資料を、対応者が相談者(事案担当者)とともに確認すると、より状況を正確に把握できるでしょう。

 

事実関係の確認後の事案への対応としては、事前に策定しておいた手順・基準に基づいて判断し対応します。自社に非がない場合は以下のような対応です。

 

  • ・責任者から行為者に対して帰ってもらう旨を伝える
  • ・行為者に対して出入禁止を通告する

 

6)従業員への配慮措置

従業員がカスタマーハラスメントを受けた場合、迅速に被害を受けた従業員に対して配慮措置を講じなければなりません。対応すべき事項として、以下の2点です。

 

●従業員の安全確保

 

顧客等が、殴る、蹴る、物を投げるといった暴力行為や、身体に触るなどのセクハラ行為に及ぶ場合、企業は従業員の安全確保に努める必要があります。例えば、監督管理者等が顧客対応を代わり、顧客等から従業員を引き離す、状況に応じて、弁護士や警察と連絡を取って対応する、など本人の安全を確保した対応が求められます。

 

●精神面への配慮

 

顧客等からの暴力的な言動により、従業員にメンタルヘルス不調の兆候が見られる場合、産業医や産業カウンセラー、臨床心理士等の専門家に相談対応を依頼するなどのアフターケアが必要です。また、専門の医療機関への受診を促すことも検討しましょう。

 

その他、被害に遭遇する従業員には定期的にストレスチェック等を行って、従業員の状況を確認し、問題が見られる場合は産業医等への相談を促すほか、従業員のメンタルヘルスの維持増進を図ることが求められます。

 

また、従業員がセクハラを受けた場合、同性の相談対応者が対応するといった配慮も必要です。

 

7)再発防止に向けた対策

ハラスメント問題への迅速な解決とともに、同様の問題を再発させない取組も実施していかねばなりません。問題が発生する原因や要因が企業・従業員サイドにある場合、その原因を解消することで同様の問題は防止できるはずです。

 

また、原因等が主に客側に合ったとしても、問題に発展させない、迷惑行為に至らせない(思い止まらせる)仕組等を講じることができれば、発生を抑制できることもあります。

 

そのため企業では発生した事案や他社での事案(及び一般的な事案)などから、問題の原因等を分析し自社において解決できるように取り組む必要があるのです。

 

例えば、従業員の接客態度や言動がクレームを誘発させたケースの内容を分析して、どの態度や言葉を使うことで問題を回避できるか、について勉強会・対策会議などを開催して把握するようにしましょう。

 

そうして検討した内容を、対策マニュアルや研修などに反映し対応方法をブラッシュアップしていくことを継続します。

 

また、問題が発生すれば、「問題の概要」「発生の経緯や原因等」「未解決・解決済み等の状況」、などの情報を迅速に伝達し、関係する従業員間で供給する、などの取組も再発防止に有効となるでしょう。

 

4 カスタマーハラスメント対策の具体例

カスタマーハラスメント対策の具体例

 

企業が取り組んでいる対策例の内容を、厚労省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」から簡単に紹介しましょう。

 

4-1 ハラスメントに対する基本方針の例

上記マニュアルでは、企業の基本方針として以下のような例を挙げています。

 

「弊社は、お客様に対して真摯に向き合い信頼や期待に応えるとともに、より高い満足を提供することに努めます。一方で、お客様が行う要求や言動の中には、常識の範囲を超え、人格を否定する言動、暴力、セクシュアルハラスメント等、我社の従業員の尊厳を傷つけるものもあり、これらの行為は、職場環境の悪化を招く看過しえない問題です。我社は、従業員の人権を尊重するため、お客様に対して誠意をもって対応しながらも、これらの不当な要求や言動に対しては、毅然とした態度で臨みます。もしお客様からこれらの行為を受けた場合、我社は従業員が上長等に報告・相談することを奨励しており、相談があった際には組織的に対応します。」

 

カスタマーハラスメント対策を全社的に浸透させていくには、まず、こうした基本方針等を従業員に示すことが重要です。

 

4-2 迷惑行為のタイプ別の対応例

「1-1」で示した迷惑行為について、その対応例を紹介しましょう。

 

1)時間拘束型

「時間拘束型」は、顧客等による「従業員の拘束」「店舗等での居座り」「企業への長時間の電話」などの行為で、その対応方法として以下のような例が挙げられています。

 

●対応例

 

  • ・対応できない理由を説明し、応じられない旨を明確に伝達するなどの対応を取る。なお、膠着状態となった場合に一定時間を超えれば、お帰り(お引き取り)を依頼する、または電話を切る
  • ・複数回電話がかかってくる場合、事前に対応が可能な時間を伝えて、それ以上の長い対応は避ける
  • ・顧客等が帰らない場合の現場対応では、毅然とした態度で退去を求める。状況を見て、弁護士への相談や警察への通報等を検討する

 

2)リピート型

「リピート型」は「理不尽な要望等について、繰り返し電話をかけてくる、面会を求める」などの行為で、その対応例は以下の通りです。

 

●対応例

 

  • ・連絡先を取得し、繰り返し不合理な問い合わせをしてくる場合、その行為が不合理である点を説明・注意し、次回は対応できない旨を伝える
  • ・それでも繰り返し連絡が来る場合、通話内容を記録・リスト化して、窓口を一本化の上、今後同様の問い合わせを止めるように明確に伝える、など毅然と対応する
  • ・また、状況により弁護士や警察への相談等を検討する

 

3)暴言型

「暴言型」は「怒鳴り声、侮辱的発言、人格否定や名誉棄損の発言」等の行為で、以下のような対応例が挙げられています。

 

●対応例

 

  • ・大声を出す・張り上げる、怒鳴るなどの行為は、周囲や他のお客様の迷惑となるため、やめるように求める
  • ・侮辱的発言や名誉を棄損する発言、人格を否定する発言などについて、後で事実確認ができるよう録音し、その上で度を超すような場合には退去を求める

 

4)暴力型

「暴力型」は「殴る、蹴る、たたく、物を投げつける、わざとぶつかってくる等」の行為で、その対応例は以下の通りです。

 

●対応例

 

  • ・行為者から危害が加えられないよう一定の距離を確保して応対する、など対応者の安全確保を優先する
  • ・また、暴力行為に及ぶ危険性が高いと判断される場合、警備員等と連携を取りつつ、複数名で対応し、直ちに警察に通報する

 

5)威嚇・脅迫型

「威嚇・脅迫型」は「危害をほのめかす脅迫的な発言」「異常な接近」などの、従業員を怖がらせるような行為が該当します。また、「対応しなければ株主総会で糾弾する」、「SNSにあげる、口コミで悪く評価する」、などブランドイメージを貶める脅し等の行為も含まれ、以下のような対応が必要です。

 

●対応例

 

  • ・複数名での対応を基本とし、警備員等と連携(警備員等を近くに配置する、直ぐに駆け付けられるようにする)を取り対応者の安全確保を優先する
  • ・また、状況により弁護士への相談や警察への通報等を検討する
  • ・ブランドイメージを傷つけるような脅しをかける発言を受けた場合にも毅然した態度で応対し、退去を求める

 

6)権威型

「権威型」は「正当な理由のない、権威を振りかざした要求」「執拗な特別扱いの要求」「文書等での謝罪や土下座の強要」などの行為で、以下のような対応方法が挙げられます。

 

●対応例

 

  • ・不用意な発言は行わないで、対応を上位者と交代する
  • ・正当な理由のない要求には応じない

 

7)店舗外拘束型

「店舗外拘束型」は「顧客等が職場外の自宅や特定の喫茶店などに呼びつける」タイプの行為で、以下のような対応が重要です。

 

●対応例

 

  • ・原則、単独での対応はしないで、クレームの詳細を確認後に対応を検討する
  • ・対応の検討のために、事前に返金等に対する一定の金額基準、時間、距離、購入からの期間などの制限などに関する基準を設定しておく
  • ・店外で対応する場合、公共性の高い場所を指定する。納得されず従業員を返さないという事態になった場合は、弁護士や警察への連絡等を検討する

 

8)SNS/インターネット上での誹謗中傷型

このタイプは「インターネット上において名誉を毀損する、またはプライバシーを侵害する情報を掲載する」などの行為で、以下のような対応方法が望まれます。

 

●対応例

 

  • ・掲示板やSNSでの被害に関しては、掲載先のホームページ等の運営者(管理人)に削除を求める
  • ・投稿者に対して損害賠償等を請求する場合は、必要に応じて弁護士に相談しながら、発信者情報の開示を請求する
  • ・名誉毀損等に関して、投稿者への処罰を考える場合には弁護士や警察への相談等を検討する
  • ・解決策や削除の求め方が分からない場合は、弁護士のほか、法務局や違法・有害情報相談センター、「誹謗中傷ホットライン」等に相談する

 

9)セクシュアルハラスメント型

このタイプは「従業員に対する、身体への接触、待ち伏せ、つきまとい等の性的な行動」のほか、「食事やデートへの執拗な誘い」「性的な冗談などの性的な内容の発言」の行為で、以下のような対応が必要です。

 

●対応例

 

  • ・性的な言動について、録音・録画による証拠をとり、被害者及び加害者に事実確認を行って、加害者には警告する
  • ・執拗なつきまとい、待ち伏せ、などの行為については、施設への出入り禁止を伝える。それでも繰り返す場合は、弁護士への相談や警察への通報等を検討する

 

以上のような対応例を自社のマニュアルや研修などに反映させ、カスタマーハラスメント対策を進めましょう。

 

4-3 迷惑行為を予防するための取組例

迷惑行為を予防するためには、それに対する顧客等の理解を得ることや、意識を変えることも重要であり、企業にはそれを促す取組が求められます。

 

何故なら、企業側がカスタマーハラスメント対策を積極的に進めても、顧客側において迷惑行為の認識や理解がなければ、ハラスメントを十分に予防することは困難だからです。

 

顧客が「こうした行為は常識を外れている」「こうした言動や要求は法的に処罰の対象となる」というような認識をもてば、ハラスメントを抑制することも可能になります。

 

具体的な対応例としては、「『ハラスメントは絶対許されません』といった内容のポスターを顧客等に見える場所に掲示する」、また「『たった一発で人生が崩れる』『暴力は犯罪です!』などの顧客等の暴力によるリスクを回避するためのポスターを作成し啓発する」といった取組です。

 

最近、飲食店等におけるイタズラ行為を動画サイトに投稿するという迷惑行為を受けた企業が加害者に対して「刑事、民事の両面から厳正に対処」する、と厳しい対応を取る姿勢を示しました(株価の大幅下落など経営に大きな悪影響が及んだため)。

 

この対応は、迷惑行為を防止する観点において、その行為の対価が非常に重いものになることを顧客側に認識してもらうための必要な措置とも言えるでしょう。

 

5 カスタマーハラスメントに対応できる会社設立等の進め方

カスタマーハラスメントに対応できる会社設立等の進め方

 

創業時からカスタマーハラスメントに対応できる組織とするための起業・会社設立の進め方のポイントを説明しましょう。

 

5-1 カスタマーハラスメントの方針

創業する場合、企業としての理念や使命を定め、それに基づいて事業方針や経営方針を決めて事業を進めて行きます。そのためカスタマーハラスメントに適切に対応できる組織を作っていくには、理念や経営方針等と関連してカスタマーハラスメントの方針を設定することが必要です。

 

例えば、理念が「多くの人々の生活に幸せ、楽しさや喜びの輪を広げる」という内容であれば、それに基づいてカスタマーハラスメントに対する自社の考え方や取り組み方などを方針として定めます。

 

この「多くの人々」の中にはお客だけでなく、自社の従業員や地域社会等も含まれるため、事業活動を通じて関係する者が快適な状況にあることをつく出すことはその企業の使命となるはずです。

 

そのため一部のお客の迷惑行為から、他のお客や従業員を守り、快適な買物空間や職場を維持することがその企業には求められます。そして、それを実現するための対応策の前提として、理念や経営方針等と合わせてカスタマーハラスメントの方針も設定しましょう。

 

5-2 ビジネスシステム等への反映

ビジネスモデル(事業の仕組)を実現するための具体的な要素(設計、生産、販売、購買、物流、等)が遂行されて、そのビジネスは実現されますが、カスタマーハラスメントに適切に対応する、防止するには、その対応策等をビジネスシステムに組み込むことが重要です。

 

カスタマーハラスメントの対応策は主に販売部門や管理部門に関連するため、各々の業務にその対応策等を含めることが求められます。具体的には、業務マニュアル等に反映することです。もちろん「カスタマーハラスメント対策マニュアル」などで独立して作成するのもよいでしょう。

 

ただし、創業当初から独立したマニュアルを作成するのは容易でないため、まず、業務マニュアル等に対応を含めて始める方が負担は小さいです。重要なことは、いずれの場合でも、ハラスメント対策がマニュアル等に含められ、通常業務とともに対応策が実行されることにあります。

 

5-3 組織体制の整備

仕組やマニュアルがあっても、業務やカスタマーハラスメント対策を実行するための組織体制が不十分であれば、仕事も対応策も上手く回りません。

 

例えば、迷惑行為が発生して、現場の従業員だけで対応できない場合、直属の上司の対応、相談窓口による支援、警備員との連携、弁護士や警察等への連絡、などが必要となりますが、そうした対応を実行させるための体制が必要です。

 

特にクレーム等の対応を現場の従業員に任せっぱなしで、経営層や上位の管理者などが直接的に関与しない場合、問題を防止するどころか、より深刻な問題(賠償請求、暴力行為、従業の離職 等)へ発展させかねません。

 

そのため、ハラスメント対策を組織的にどう対応するかを設計し、それに基づいた体制を整備することが必要です。相談窓口部門と担当者、それらを指揮する役員、彼らと連携する弁護士等の外部協力者、などを設置し、それらが有機的に連携できるようにすることが求められます。

 

会社設立後の小規模な企業の場合、そうした体制を取ることは困難ですが、従業員と経営者が役割を決め協力してハラスメント対策にあたるという体制は取れるようにしましょう。

 

5-4 運用・管理の維持向上

創業後においては、事業が順調に展開できていること、業務が円滑に進められていることが重要ですが、定期的にその実態をチェックして問題点等を改善する取組が求められます。その際にカスタマーハラスメント対応についても同様に行いましょう。

 

問題の芽をつぶす、小さな問題のうちに原因等を把握して早めに解決する、といった対応が問題の深刻化を防ぎ、深刻な被害への進展を阻止することに繋がります。

 

そのため日々の問題点を簡単に報告できる制度を作り、問題を社内で共有するとともに、担当者や上位の者が問題解決のための取組を提案する、といった仕組を導入・運用することなどが必要です。対応策を実施・改善し続けるシステムにしていきましょう。

 

5-5 意識の向上と対応力の養成

ハラスメント対策を適切に実行していくためには、経営者及び従業員がそのための意識と遂行能力を持つことが不可欠であり、企業としてはその確保に向けた学び等の機会を設けなくてはなりません。

 

具体的には、ハラスメント対策に精通した機関などから対応の支援を受ける、そうした機関の研修会に経営者や従業員が参加して学ぶ、実際に企業内で模擬訓練をする、といった取組が挙げられます。

 

ハラスメント対策を自社で進めることは重要ですが、顧客対応は繊細なものであるため、第三者の目を通した内容の確認が重要です。行き過ぎた対応はさらなるトラブルとなるため、ハラスメント対策の専門家等の協力を得て、適切な対応力を維持向上できるように努めましょう。

 

6 まとめ

カスタマーハラスメント対策

 

一部の顧客から迷惑行為を受けると、自社の業績が悪化し、従業員は心身を病み、他の顧客は不快な思いをする、という事態を招き、事業継続が難しくなることもあります。そのため、会社設立時から早めにカスタマーハラスメント対策を進めることは重要です。これまで取り上げてきた内容を参考にするなどして、自社の状況にあった対応方法の導入を検討してみてください。


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