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食品業界の課題解決を目指す新設会社等の事業の進め方

日本の食品業では、コロナ禍での食生活の変化、環境への負荷軽減、健康意識の高まり、フードロスの増大、などに関する課題があり、食品の加工業、流通業、小売業等に従事する事業者にはその対応が求められています。

今回の記事では、食品関連の課題を解決するための取組やビジネスを紹介し、その事業の進め方などを解説します。

食品業界の現状、問題およびその背景、今後の動向などのほか、食品業界での課題解決を目指す事業や新ビジネスを紹介しつつ、会社設立後にそうした事業を進めて行く場合のポイント等を説明していきます。

食品業界での起業を考えている方、食品業界で新ビジネスを検討している方、食品関連の様々な問題をビジネスで解決したい方などは、参考にしてください。

 

 

1 食品業界の現状と課題

食品業界の現状と課題

 

まず、食品業界の現状を概観し、どのような課題やビジネスチャンスがあるのか、を確認しましょう。

 

 

1-1 食品業界の市場状況

ここでは食品業界の市場規模などの状況を簡単に見ていきましょう。

 

1)国内の食品市場の規模

株式会社デジタル&ワークスが運営するサイトの「業界動向サーチ」の業界情報によると、国内の食品市場の状況は下記の通りです。

 

  • 業界規模:21.1兆円 *主要対象企業124社の売上高の合計
  • 成長率:-0.1% *成長率は直近3年間の平均
  • 利益率:+2.6%
  • 平均年収:621万円*平均年収は上場企業の平均

 

また、財務省の「年次別法人企業統計調査(令和2年度)」によると、国内の食料品製造業の売上高と売上高営業利益率の推移は以下のようになっています。

 

年度 売上高(億円) 売上高営業利益率(%)
2016 452,845 3.8
2017 448,844 3.5
2018 458,416 3.5
2019 441,287 2.9
2020 421,311 2.3

 

2020年度の全産業の売上高は13,624,696億円、製造業全体は3,650,948億円となっており、食料品製造業の各々の占める割合は約3.1%と約11.7%です。製造業全体で見た場合、食料品製造業は、1位の「輸送用機械」(709,930億円)につぐ2位であり、国内の主要な製造業の1つと言えます。

 

また、2020年度の売上高営業利益率を見ると、食料品製造業は11製造業種中9位です。同業界での売上高も営業利益率も減少傾向が表れ始めています。

 

2)国内の食品市場の概況

先の「業界動向サーチ」では、最近の国内の食品市場の状況について「2020-2021年 食品業界は巣ごもり需要が一服 業務用はやや回復」と題し、以下のような点を報じています。

 

  • ・食品業界の過去の業界規模の推移を見ると、2019年までは緩やかな増加傾向だったが、2020年には減少に転じた
  •  

  • ・財務省の法人企業統計調査によると、2020年度の食料品製造業の売上高は前年比4.5%減の42兆1,311億円、営業利益率は前年比20.7%減の2.3%だった
  •  

  • ・2018年度までは食品製造業の売上高は横ばい、利益率は増加傾向にあったが、2018年度から2020年度にかけては売上高、利益率ともに減少傾向
  •  

  • ・2020年の食品業界は新型コロナに伴う巣ごもり需要の増加で、即席めん、食パン、調味料、ハム・ソーセージなど家庭向け食品が好調に推移した。一方、新型コロナの影響で飲食店向けなど業務用の食品需要は大きく落ち込んだ
  •  

  • ・2021年の食品業界は急増していた巣ごもり需要は落ち着き、業務用食品の需要は徐々に回復。一方で、2021年の中盤から2022年にかけては、小麦や大豆、食肉などの原材料費の高騰が目立ち、食品各社は値上げを行う

 

以上の内容から同サイトでは最後に、ここ2年間の食品業界は「巣ごもり需要の増加、巣ごもり一服、物価上昇」というトレンドの移り変わりが確認できるとまとめています。

 

また、株式会社日本政策金融公庫は「食品産業動向調査(令和4年1月調査)」を実施し2022年3月9日にその結果を「食品産業の景況は持ち直しの動きが続いている」と題して公表しました。

 

その「食品産業の景況」のポイントは以下の通りです。

 

  • ・令和3年下半期の食品産業の景況DI(指標)は、前回調査(令和3年上半期)から0.1ポイント上昇し▲9.2。令和4年上半期は、さらに4.7ポイント上昇し▲4.5となる見通し
  •  

  • ・業種別景況DIは、製造業と飲食業で上昇(飲食業は平成30年下半期よりマイナス値が続いていたが、今回調査でプラス値へ)。他方、小売業はマイナス値へ(令和2年上半期よりプラス値が続いていたが、今回調査で大幅に低下)
  •  

  • ・令和4年上半期の業種別景況DIは、すべての業種で上昇する見通し。中でも、今回調査でプラス値に転じた飲食業は、さらに大幅に上昇しプラス幅が拡大する見通し
  •  

  • ・設備投資DIは6.2となり、新型コロナウイルス感染症拡大前(令和元年1月時点/7.0)と同水準に回復
  •  

  • 以上の通り、食品産業の景況感は全体として回復傾向がみられ、特に飲食業ではその傾向が強まっています。ただし、これまで比較的好調だった小売業がマイナスに転じている点には注意が必要です。

 

また、「新型コロナウイルス感染症拡大の影響」については以下のようなポイントが示されています。

 

  • ・新型コロナウイルス感染症拡大により“売上高にマイナスの影響がある”とする回答割合は、製造業で低下。他方、卸売業、小売業、飲食業では、割合に大きな変化なし。なお、飲食業では、約9割が“売上高にマイナスの影響がある”との回答
  •  

  • ・製造業における“売上高にマイナスの影響がある”とする割合は、すべての売上階層で低下。特に、売上高10億円以上の各売上階層においては、令和2年7月調査以降、継続して低下。
  •  

  • ・今後の経営発展に向け取り組みたい課題は、すべての業種で「人員確保、育成対策」が上昇傾向。一方、「衛生対策」や「資金繰りの安定」は低下傾向

 

以上の通り、新型コロナのマイナス影響は製造業で低下が見られるものの、他の業種では変化が見られません。特に飲食業の9割が、マイナス影響があるとしており厳しい状況が続いていることが窺えます。

 

「IT技術の導入」の点についてのポイントは以下の通りです。

 

  • ・食品産業のIT技術の導入状況は、44.7%が「取り組んでいる」と回答し、「現在は取り組んでいないが、今後検討したい」を合わせた75.3%がIT技術の導入に前向き
  •  

  • ・IT技術を導入している業務は、製造業、卸売業、飲食業で「経理・財務」、小売業で「人事・労務」が高い
  •  

  • ・IT技術の導入における課題は、すべての業種で「スキルを持った人材の不足」との回答割合が最多。次いで「投資コストの負担が大きい」となった。卸売業では他業種と比較して「業界にアナログな文化・価値観が定着」との回答割合が高い

 

食品業界の取引や業務では複雑な面が多いと言われており、その改善のためにIT・デジタル技術の活用が期待されています。上記の調査結果はその有効性の認識の表れと言えるでしょう。

 

なお、ITの導入には、回答で見られるように人材確保、投資コストの負担や業界の価値観といった問題の解決が必要になっています。

 

3)原材料の高騰と食品の値上げ

株式会社食品新聞社のサイトでは2022年6月20日に「製油・製粉 円安で膨らむ原料コスト 食糧インフレへの対応急務 今期2千億円を超す負担増」と題した記事を報じました。その主な内容は以下の通りです。

 

  • ・世界的な穀物価格の高騰と円安進行で、製油・製粉業界のコスト上昇が深刻化
  •  

  • ・食用油では昨年から5度にわたる価格改定を実施。店頭価格の値上げが進んできたが、コスト上昇に追いついていない。
  •  

  • ・製粉業界では、輸入小麦の政府売渡価格が2期連続の大幅上げでパンや麺類の価格改定が相次ぎ、10月以降さらなるコスト上昇が懸念されている。
  •  

  • ・22年度の製油・製粉業界のコスト影響額は、現時点で少なくとも2,000億円を超える見通しで、今後の原料相場や為替の行方により、さらに膨らむ可能性あり

 

こうした値上げの動きは海外での需要の増加に加え、新型コロナからの経済活動の回復を受けて近年から見られるようになりました(生産や流通等での人手不足や賃金の上昇等による原材料の高騰)。

 

なお、国内の食品産業は原材料の60%ほどを輸入に頼っており、世界的な原材料の高騰が大きく影響するという構造になっています。さらにロシアのウクライナ侵攻によって小麦などの穀物の需給が世界的に逼迫しており、更なる値上げに迫られる状況です。

 

 

1-2 食品業界に影響を及ぼす要因と課題

食品業界に大きな影響を与える要因や抱えている課題などを見ていきましょう。

 

1)人口構造

国連人口基金(UNFPA)の「世界人口白書2020」によると、2020年の世界人口は約78億人、日本は1億2650万人で世界人口ランキングでは11位です。

 

世界人口が前年比8000万人増である一方、日本は40万人の減少となっています。食品の需要は人口に比例するため、国内の食品需要も減少する可能性が高く、先の食料品製造業の業績低迷も理解できるはずです。

 

他方、世界人口は増加しており、国連経済社会局人口部の「世界人口推計2019年版:要旨」によると、2050年には97億人に達し今後30年で20億人増加すると推計しています。

 

つまり、国内人口に対する食品需要は減少する一方、世界では増加していく可能性が高く、国内の食品関連企業が成長を維持し続けるためには海外の需要を取り込む必要があるのです。

 

国内においては、少子高齢化の社会が益々進展することになるため、食品業界としてはその対応が求められます。子供には成長期に合わせた適切なカロリー摂取ができる食事、成人にはバランスの良い食事、高齢者には健康増進に繋がる食事、といった目的に応じた食品の提供が必要になるでしょう。

 

また、核家族、単身世帯、高齢者世帯などの増加により食品提供の仕方の変更も求められるはずです。

 

2)コロナ禍

新型コロナの感染防止対策として、スポーツ等のイベントの自粛要請、教育機関への臨時休校要請、飲食店への時短・休業要請、企業へのリモートワークの協力要請、などがあり人々の生活および食生活にも変化が見られるようになりました。

 

食品業界では、上記の影響により生じた「おうち時間」の増加に伴い外食業界(飲食店やその納入業者等)が厳しい経営状態に追い込まれる一方、巣ごもり需要の発生によりデリバリー業界や食品小売業などは好調でした。

 

変化としては、外食業界はテイクアウトやデリバリーの事業を始めたほか、卸業者は新たな販路として食材を直接消費者に届けるネット販売を行う事業者が増えています

 

デリバリーを含む中食(総菜)業界は2000年代の初めあたりから徐々に市場規模(売上高)が増大してきましたが、2020年度は対前年比で減少したもののすごもり需要の発生により2021年度は前年比103.0%と比較的好調です(2022年版 惣菜白書)。特に食品スーパーや百貨店の総菜の販売は前年比で5%以上の伸びとなっています。

 

総合スーパーでは、自宅での食事の回数の増加に伴い食品や飲料の売上が伸びました。商品別ではウィスキーや酎ハイなどのお酒類のほか、お肉や魚介類(特に高級食材)が好調で、また、菓子作り用の小麦やホットケーキミックスなどの需要増も見られています。

 

なお、外出自粛などの影響を受けて贈答品用の食料品の販売は2020年度が対前年比で92.8%と大きく落ち込みましたが、2021年度は104.6%の回復となり、22年以降は微増するものと見込まれています((株)矢野経済研究所の「食品ギフト市場に関する調査を実施(2022年)」より)。減少した贈答用の食品は、まんじゅう(-17.6%)やカステラ(-12.2%)、ゼリー(-12.7%)などです。

 

コロナ禍では食品の入手方法にも変化が見られ、特にインターネットを利用した購入が増えています。2020年の総世帯でのインターネット利用による月平均支出額は1世帯当たり前年比14.8%増14,557円です。購入対象の中では、出前が111.5%増、食料品が57.7%増、飲料が36.7%増の大幅増加となりました。

 

コロナ禍の中で注目された食品としては、健康食品や防災食品などが挙げられます。新型コロナの影響で健康意識が高まり、免疫力、筋力等の増強などを意識した食品の購入が増えているのです。

 

また、3密を回避した買物、特に非接触を重視する考えや近年の防災意識の高まりもあって、レトルト食品、インスタント食品や冷凍食品などを買い求める家庭が増え始めました。

 

以上の通り、新型コロナの感染拡大により人々の食生活や企業の事業活動に大きな変化が生じましたが、完全な収束が見えてこない状況を考えるとこうした変化が定着する可能性は低くないでしょう。

 

3)戦争・インフレ・食料供給不安

現在は、2021年から生じ始めたエネルギーや穀物等の価格上昇に加えロシアのウクライナ侵攻によりインフレが加速しつつあります。こうした状況について国際通貨基金(IMF)のエコノミストであるホルヘ・アルバレス氏は以下のような内容を公表しました。

 

  • ・一次産品の値上がりや広範囲の物価上昇圧力により、物価上昇率の高止まりが見込まれていたが、ウクライナでの戦争でその傾向が当初の予測以上に長く続く見通し
  •  

  • ・IMFの最新の世界経済見通しでは消費者物価が今年、先進国と新興市場国・発展途上国ともに、当初予測よりも速く上昇する見通しだが、不透明感が高い
  •  

  • ・IMFの物価上昇率予測では、先進国が38年ぶりの高水準となる5.7%、新興市場国と発展途上国が2008年の世界金融危機以来の高水準である8.7%へ加速。翌年はそれぞれ2.5%と6.5%へ減速する

 

なお、ウクライナはロシアの侵攻により小麦などの穀物の輸出が滞っており、世界的に影響が出始めています。単に穀物価格の高騰だけでなく、飢餓の発生などが危ぶまれているのです。

 

4)SDGs

2015年の9月25日-27日にニューヨーク国連本部において、「国連持続可能な開発サミット」が開催され、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、持続可能な開発目標(SDGs)が設定されました。

 

このSDGsは7つの目標と169のターゲットから構成されており、食品の視点からは「貧困をなくそう」と「飢餓をゼロに」の目標が直接的に関係しています。

 

2015年時点で、世界には7億3700万人が極貧状態にあり、その大半が南アジアとサハラ砂漠以南のアフリカにいます。極度の貧困にある人々のうち、8割が農村部の方で、生計手段と食料の確保を農業に頼っているのです。

 

包摂的(恩恵を分かち合い、誰もが意思決定の過程に参加可能)な農業や食料生産、農村地域における農業以外の仕事は、雇用を生み出し、飢餓の解消に繋がると期待されています。

 

また、飢餓の撲滅には「食品ロス」の解消が有効だと考えられており、そのために以下のような内容の「目標12 ターゲット12.3」設定されているのです。

 

  • ・「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」

 

世界の人口増加や自然災害の頻発などといっ状況の中で、品質のよい食料を確保することは、今世界が直面している大きな課題の1つとみなされています。

 

その解決には、世界の小規模農家の生産性と所得の向上、食料の生産から流通・消費までの一連の流れの整備、食品産業など産業界の相互の連携等の向上が必要になります。加えて、生物多様性や遺伝資源の持続可能な利用の推進に向けた取組も求められているのです。

 

5)国内の食品業界の諸問題

●低い収益性と成長性

 

食品業界の特徴は、他の業界と比較して利益率と成長率がともに低い点です。「業界動向サーチ」によると、2020年決算の食品業界の利益率は、+1.8%で99位、成長率も+1.8%で104位となっています(いずれも146業界中)。

 

●原料費、人件費、物流費の高騰

 

食品業界においては原材料費や人件費など製造コストの上昇が大きな問題です。製造コストの上昇はさらなる収益性の低下に繋がり、成長の阻害要因になります。

 

食品の製造コストの増加に伴う「値上げ」は、長期のデフレ環境に慣れ親しんだ日本の消費者には簡単に受け入れられません。しかし、インフレの急速な進行、エネルギー価格や穀物価格等の高騰に対応した値上げを実施しないと、経営リスクを高める恐れがあります。

 

●食べ物を提供するという事業の特異性

 

食品・飲料を提供する食品業界も他の業界と同様に原材料を調達して工場でそれを加工し、卸売・小売を通じて消費者へ流通させるプロセスを有しています。しかし、食品業界は、扱う原材料・半製品・製品などの棚卸資産が鉱物ではなく、「生もの」であるという点が他の業界と大きく異なっているのです。

 

人の口に入る食べ物を扱う食品業界は他の業界以上に安全面や衛生面での配慮が求められます。また、生もの故に下記のような影響を受ける点も特徴です。

 

  • ・原材料の入手時期の季節性
  • ・原材料の豊凶による生産数量への影響→価格への影響
  • ・保存性の困難性(消費・正味期限等)
  • ・加工の容易性(鉱物等に比べ容易)

 

こうした要素を踏まえた加工・流通が食品業界では求められます。

 

●流通業務の複雑さ

 

食品業界においては、大手総合スーパー等の台頭により納入業者は多頻度小口配送が求められ、卸売業等にとっては大きな負担となっていました。また、納入業者の配送を上手く管理できないと受入れる小売店側の業務が増加するといった問題に直面するようになったのです。

 

こうした非効率を解決するために大手スーパー等は自ら専用物流センターを設置して配送をコントロールし流通業務の適性化を進めてきました。しかし、大手以外の小売店では改善が進んでおらず、小売店、メーカー、卸売業および物流業者などの流通プロセスに関係する事業者間での協力した改革が必要となっています。

 

 

2 食品業界の今後と対応

食品業界の今後と対応

 

日本の食品業界が今後どのような方向へと進んだらよいのか、について考えてみましょう。

 

 

2-1 海外との取引の強化や進出

人口増加が期待できにくい日本において、食品業界が成長していくには事業の重点を海外にシフトすることも必要です。しかし、日本の食品と海外の食品とでは違いも少なくないため、各国・各地域の食文化等の状況に応じた海外展開が求められます。

 

また、国や地域によって日本食の認知度や利用状況が異なりますが、その状況は次の3つのステージに分けることが可能です(令和3年1月 近畿経済産業局「食品事業者のための海外展開実践ガイド」より)。

 

ステージ1:日本食・日本食文化の受け入れ期

⇒この時期は、「なんちゃって」日本食料理屋の誕生や業務用(常温・冷凍)商材の利用が見られる時期が該当します。

 

ステージ2:日本食・日本食文化の発展期

⇒百貨店・スーパー・コンビニ向けの小売商材の販売が可能で、生鮮商材、NB商品に加え、PB商品の可能性が出てくる時期です。

 

ステージ3:日本食・日本食文化の成熟期

⇒この時期はナショナル・ブランド商材が飽和状態を迎える一方、特徴のあるプライベート・ブランド商品が増える時期になります。健康・ベビー・高齢化に関する商品などが有効です。

 

こうした各国の状況、消費者ニーズ、食文化などを考慮して輸出事業や海外生産事業などを検討する必要があります。低カロリー・低脂肪などで人気が高まり日本食ブームが生じている国も増えているため、日本の食品業界は政府などと協力して海外展開を加速させていかねばなりません。

 

海外での日本酒、醤油、味噌や豆腐などの日本独自の食品に対する認知度は徐々に高まってきているため、日本食のブランド価値を一層高めていけば輸出だけでなく、現地生産の展開も期待できるはずです。

 

 

2-2 国内市場の変化への対応

新型コロナ、インフレ圧力等の影響で国民生活には様々な変化が見られるようになりましたが、ここでは食品業界がそれらにどう対応したらよいかについて見ていきましょう。

 

食品業界の国内市場の変化への対応

 

1)健康意識の高まりへの対応

新型コロナの感染拡大の影響により日本人の健康意識がさらに高まっており、機能性食品などの健康食品の需要が拡大し始めました。

 

ネットリサーチを運営するマイボイスコム株式会社は「健康意識に関する調査」を継続して行っており、6回目の調査結果を以下のように公表しています。

 

  • ・健康に気をつけている人は7割強、2019年調査から増加。気をつけている人の比率は高年代層で高い傾向。
  •  

  • ・健康のために取り組んでいる分野は「食生活」が6割強、「睡眠」「運動」が各40%台。
  •  

  • ・健康の維持・促進のために「朝食を毎日食べる」「栄養バランスを考えた食事」「ウォーキング、ジョギング」「十分に睡眠をとる」などが各30%台。高年代層での比率が高いものが多く「塩分を控える」「朝食を毎日食べる」「生活リズムを整える、規則正しい生活」などは年代差が特に大きい傾向。
  •  

  • ・健康の維持・促進のために必要だができていないことは「ウォーキング、ジョギング」「スポーツ」「甘いものを控える」が各20%台、「食べ過ぎない」「十分に睡眠をとる」「ストレスをためない」などが各2割弱。今後続けたい・始めたいことは「ウォーキング、ジョギング」が4割強、「十分に睡眠をとる」「栄養バランスを考えた食事」「食べ過ぎない」などが各30%台。

 

以上のように人々の健康意識の高さが確認できますが、特に生活の中心の一つである食事・食品に気を使っている点が分かります。食品事業者としてはこうした傾向をニーズとして捉え商品開発などに役立てるとよいでしょう。

 

2)単身・高齢者世帯への対応

国内の家族形態は、一般の家族世帯、独身の単身世帯、高齢者夫婦世帯、高齢者単身世帯、などに分けられますが、各世帯により食事の取り方等に違い見られるため、食品事業者はターゲットとする世帯の特徴に合わせた事業展開が求められます。

 

食事の形態は、家で調理する「内食」、総菜・弁当などを買って家で食べる「中食」、飲食店等で食べる「外食」に分けられますが、各世帯によりその形態の傾向に違いが見られます。

 

男性の単身世帯では外食や中食、高齢者の単身世帯などでは中食を取る傾向が他の世帯より強いです。たとえば、高齢者の単身世帯などに対する弁当の宅配サービスが急増しています。

 

これは介護サービスの一環として提供されているほか、65歳以上の方に対しての配食サービス(安否確認も兼ねて)を実施する自治体が増えている影響もあるでしょう。高齢者社会の進展に伴い、こうした高齢者に対する食事の提供サービスは今後も拡大することが予想されます。

 

また、独身化や晩婚化などの進展で若い世代の単身世帯も増加しているため、彼らの個食に対する対応も必要です。独身男性向けにはボリューム感のある食事、節約志向の高い独身女性向けにはコスパの高い食事、といった商品開発などが求められます。

 

3)おうち時間増への対応

コロナ禍ではリモートワークや外出自粛等の要請によりおうち時間が増え、自宅で調理して食する機会が以前より増加しました。アンケート調査の結果などでは自宅での手作り料理の機会が増えたとする結果が多く見られます(株式会社ヴァリューズの調査より)。

 

新型コロナが収束すれば、こうした傾向の勢いは弱まる可能性は高いものの、ある程度定着する可能性も否定できません。実際、コロナ禍の後も手作り料理を継続していきたいとする声は多いです。

 

また、コロナ禍においては食品や食材を取り寄せる方が増えています。日常的に使用する食材等の取り寄せが全般的に増加していますが、各年代による内容の違いには注意が必要です。

 

たとえば、女性50代以上の方では「日常的に料理に使う食材」「調理が簡単な食材」の取り寄せが特に多くなっています。一方、20~40代は「高価・特別感のある食材」「食品ロス・フードロス削減に貢献できる食材」など、特別な体験をしたい、生産者を支援したい、などの目的で取り寄せるケースが少なくありません。

 

4)オンラインの飲食会への対応

コロナ禍で外食自粛が要請され、オンライン飲み会や食事会等が見られるようになりました。コロナ収束後はこうした会は少なくなる可能性はありますが、リモートワークなどが定着すればこれらの会も一定程度継続される可能性はあります。

 

ビジネスに関係なく遠方にいる者同士が交流を深めたい場合、オンラインによる会食等なら会場費や交通費をかけずに開催でき有効です。こうしたオンライン飲み会等に適した食品、飲料やおつまみなどを届けるといったサービスは今後も期待されるでしょう。

 

5)食品ロスを含むSDGsへの対応

日本社会において環境重視の考えが強まりつつあり、SDGsの実現に取組む企業や、食品関連事業で食品ロスの削減に取組む活動などは、企業価値の向上に繋がります。

 

原材料や製品の徹底した在庫管理、需要量と供給量を適切に調節した生産、効率的な配送、などにより製造はもとより販売でのムダなロスをなくし廃棄をゼロにしていくといった取組が今、求められます。

 

こうした活動を適切に進めることで業務が効率的になり、食品ロスの削減効果だけでなく、生産や流通でのコスト削減を実現させる可能性も高いです。

 

また、世界に目を向けると食料需要は増大しており、その食料供給は飢餓をなくす上で重要な役割になります。海外に進出して、安心・安全に農産物を生産・供給する、現地で加工・販売するといった役割も日本の食品事業者に求められているのです。

 

6)産地直送への対応

ふるさと納税の返礼品の浸透で地方などの特産物を取り寄せるという購買も一般化し、コロナ禍によりその傾向がさらに強まりました。地方などの食品事業者で全国的な販売チャネルを持たずとも、現代はではインターネットを上手く利用すれば、販売を伸ばすことは十分可能です。

 

おうち時間の増加で高級食材の取り寄せなどが増加しており、地方の特産品などを自治体等と協力すれば、認知度を高め販売増へ繋げられます。返礼品に採用されると、PR効果は高いですが、採用されない場合でも有効なPR方法はいくつもあり、SNSなどを積極的に活用しましょう。

 

7)インバウンド需要の回復への対応

外国人の入国規制が徐々に緩和されており、以前のようなインバウンド需要が回復する可能性が高まってきました。

 

今日の日本食ブームの大きな要因の一つとして、訪日した外国人が日本食に興味を抱いた点が挙げられます。そのためインバウンド需要が回復する中でそうした日本食のファンを増やすための取組が必要です。

 

訪日客に自社の食品を試してもらえる機会を作り、実際に食してもらうための活動が求められます。旅行代理店、宿泊施設、観光施設や自治体などと協力してそうした仕組みづくりも検討しましょう。

 

 

3 食品業界での課題解決を目指す企業の取組事例

食品業界での課題解決を目指す企業の取組事例

 

食品業界には様々な課題がありますが、その解決のためのビジネス例を紹介します。

 

 

3-1 SDGsの達成に貢献する取組

 

●会社概要

 

  • 会社名:日清食品グループ(日清食品株式会社 等)
  • 所在地:東京都新宿区新宿
  • 資本金:(日清食品株式会社;50億円)
  • 事業内容:グループの事業は、即席麺、チルド食品、冷凍食品、菓子、シリアル食品、乳製品、清涼飲料、チルドデザート等の製造および販売

 

●取組方針等

 

同グループでは、環境戦略として「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定し、2019年度に実施した気候変動のシナリオ分析の結果に基き、CO2排出量、水使用量、廃棄物における数値目標を設定しました。

 

その目標達成に向けた活動で気候変動リスクを低減するほか、ビジネス機会を創出できる企業体になるべく植物代替肉の使用推進や培養肉の開発、環境負荷の低い原材料の開発などを推進しています。

 

●取組やビジネスの内容

 

具体的な取組は「資源」と「気候変動」の2つの問題への対応です。資源問題では「地球に優しい調達」「地球資源の節約」「ごみの無い地球」を目指し、目標値の設定に基づき環境負荷の低い調達や廃棄物の削減など、資源の有効活用に取組んでいます。

 

気候変動問題では「グリーンな電力」「グリーンな食材」「グリーンな包材」の利用に取組み、CO2排出量の削減目標を設定しています。具体的な取組は、事業で使う電力を再生可能エネルギーで補う、包材や食材に使う原料を環境負荷の低いものに切り替える、などです。

 

たとえば、「グリーンな電力」では、2020年3月より日清食品ホールディングス東京本社の使用電力の50%を再生可能エネルギー由来のごみ発電電力の使用へと置き換えられました。

 

また、「グリーンな食材」については、同グループは畜産に必要な餌を動物性具材から大豆ミートなどの植物性由来の具材に置き換えられるように研究を進めています。ほかにもこれまでの食肉よりも環境負荷が低い培養肉の開発にも取組み、既にサイコロステーキ状のウシ筋組織の作製に成功しました。

 

●取組の効果やポイント

 

・SDGsの達成への貢献

SDGsの達成に向けた取組は世界の各国、各企業で推進されるべき活動であり、実施することは目標達成に向けた貢献として評価されます。世界の消費者の環境意識は益々高まっていくため、この活動に積極的に取組む企業やその商品は支持され販売への好影響が期待できるでしょう。

 

・イノベーションの推進

環境負荷を低くする取組では、今までとは全く異なる材料の使用や生産工程などを導入する必要があり、企業にはイノベーションが求められます。同グループは大豆ミートや培養肉の開発などのイノベーションを進めており、今後のビジネスチャンスの獲得に繋がるはずです。

 

 

3-2 フードロス問題への取組

 

●会社概要

 

  • 会社名:IP SHOWCASE株式会社
  • 所在地:東京都千代田区麹町
  • 資本金:1000万円
  • 事業内容:知的財産の紹介および斡旋等のほか、冷凍ハンバーガー専門ブランド「Tenderbuns(テンダーバンズ)」の運営

 

●取組方針等

 

同社は知的財産にかかわる業務が本業ですが、パンの冷凍技術を有する職人からの相談を受けリベイク専門パンブランドの「テンダーバンズ」を立ち上げました。

 

この冷凍技術は、廃棄されるパン(ロスパン)を減らしたいという、パン職人(山下幸男氏)の思いから誕生したもので、そのフードロス問題の解決に向けた取組に同社が共感してスタートしたのです。

 

●取組やビジネスの内容

 

テンダーバンズは店舗サイトにより販売されていますが、立ち上げ当初はクラウドファンディングのMakuakeを通じた販売も行っていました。

 

コロナ禍で外食自粛などが要請される中、お店のハンバーガーの味を堪能した方、こだわりの厳選素材(オーストラリア産ビーフ100%のパティ、チェダーチーズ)や保存料・イーストフード無し、を求める健康志向の高い方などが安心して食せるハンバーガーとして販売されたのです(冷凍配送)。

 

そのハンバーガーの魅力は、冷凍庫で10カ月間の保存が可能な点、冷凍した状態(袋に入れたまま)からわずか1分30秒~50秒という短時間で食せる状態になる点が挙げられます。パティは高温のオーブンで一気に焼き上げた直後、真空冷却で肉汁と旨みが封じ込められており、電子レンジでの加熱で肉の風味が再現されるのです。

 

プロモーション活動では、Makuakeを活用して同店舗や開発商品をストーリーとして発信・訴求したほか、自社ブログ、メディア掲載やSNS等を利用した情報発信が行われました。

 

●取組の効果やポイント

 

・食品ロスの実現

冷凍保存が前提で長期の冷凍保存が可能な食品を製造・販売することで売る側も買う側も、世の中が求める食品ロスの削減に貢献できます。

 

・健康や安全志向のへの対応

 

保存料・イーストフードを使用しない調理、牛の飼育管理が徹底されているオーストラリア産ビーフなどの厳選食材の使用、などで健康や安全志向の高い消費者のニーズを取込むことが可能です。

 

・本物を手軽に食したい人のニーズに対応

 

店で食べるのと同じ味わいを、冷凍保存でも手軽に食べたいという消費者を囲い込むことができます。

 

 

3-3 海外展開での取組

参考:J-net21の中小企業海外展開事例集(農産品・食品)等より

 

●会社概要

 

  • 会社名:吉川食品株式会社
  • 所在地:北海道砂川市東豊沼
  • 資本金:6000万円
  • 事業内容:和菓子製造

 

●取組方針等

 

同社は、昭和28年創業の、北海道産農産物原料にこだわる和菓子の老舗企業です。製品を冷凍保存できれば、大量生産、注文に応じた出荷が可能となり、販路拡大にも繋がると考え、昭和60年に独自の冷凍技術を開発しました。

 

解凍しても風味を損なわない冷凍和菓子の製品化に成功して、冷凍おはぎの製造・販売を始め、現在それらは売上の7割を占めます。

 

また、同社はこの冷凍技術を活用すれば、海外の販路拡大も可能と考え、海外在住邦人向け食材のオファーをきっかけに製品輸出を開始したのです。韓国、中国のほか、東南アジア、アメリカ、ドイツ、オーストラリアやクウェートなどが対象で、主に現地の日本人をターゲットに販売されています。

 

海外市場においては健康志向の高まりから安心・安全が求められていて、北海道の素材は注目される可能性があり、同社は海外展開に注力するようになったのです。

 

●取組やビジネスの内容

 

・商社との同行販売から独自のマーケティング活動へ

在外邦人向けの食材として輸出がスタートし、当初の販売活動は国内貿易商社に同行するという営業スタイルでした。しかし、現在は海外展示会への参加などで自社ブランドを売り込むほか、独自のマーケティング活動を行っています。

 

どのような商品が売れるのかを、現地の販売マネージャーから直接リサーチし、新たな製品開発・改良を行った上で、それを商社に提案することで継続的な輸出に繋げているのです。

 

・世界食品コンクールへの参加

同社ブランドの「北匠庵」は、品質が高く平成21年に、おはぎでは世界で初めてモンドセレクション(第49回2010年世界食品コンクール)の銅賞を受賞しました。

 

・海外の商談会への積極的な参加

同社は、自社製品がでていない地域などを対象に海外の商談会へ積極的に参加しています。

 

●取組の効果やポイント

 

・海外進出による成長の維持

国内の食品メーカーとしては人口増加が見込める海外への進出は自社の成長の持続に繋がります。

 

・海外展開には効果的プロモーション活動が必要

各種コンクールへの参加および受賞はブランド価値の向上に有効です。また、世界のバイヤー等が集まる海外の商談会への参加も海外展開を推進する上で欠かせません。

 

・日本食ブームへの対応

世界では日本食が注目されつつあり、地域によっては日本食ブームが起こっているため、こうしたトレンドに乗れば海外進出の成功に繋がるはずです。そのためには海外で開催される日本食以外のイベントなどとコラボしたプロモーション活動(アニメ・イベント等や外国人のシェフとのコラボ 等)も必要になるでしょう。

 

 

3-4 コロナ禍で生き残る取組

参考:日本政策金融公庫の「日本公庫つなぐ」25号より

 

●会社概要

 

  • 会社名:株式会社南部美人
  • 所在地:岩手県二戸市福岡上町
  • 従業員数:36名
  • 事業内容:清酒・リキュールの製造・販売

 

●取組方針等

 

同社は岩手県の120年を有する老舗の蔵元ですが、新型コロナの影響は同社にも直撃しその対応に迫られたのです。

 

同社は自社の蔵元としての生き残りだけでなく、材料を供給してくれる酒米農家の生存のため、また、コロナの感染に苦しむ社会のために消毒用アルコールの生産に急遽取組み、その経験を活かしてスピリッツなどの新商品開発を進めました。

 

●取組やビジネスの内容

 

・新型コロナによる影響と対応

海外のロックダウンで海外からの取引が停止し、国内でも緊急事態宣言の発令に伴い飲食業は休業を余儀なくされ、その結果同社の販売は停滞し製品在庫が膨れる状態となりました。

 

その結果、同社は生産を抑制しましたが、酒米の大量余剰に直面したのです。そのころ不足していた消毒用アルコールの生産の要望が起こり、同社などが厚生労働省に働きかけてその実現に至ったのです。

 

消毒用アルコールの製造はお酒とは勝手が違うため、一時的にお酒造りをストップして消毒用アルコールの生産が開始されました。

 

しかし、こうした緊急事態に対応した取組も、従来の消毒用アルコールの供給が回復すれば、蔵元の同製品の需要は減少する可能性が高いです。また、海外でのお酒の取引、国内の飲食業の営業等の回復は見込めず、同社としては打開策が必要でした。

 

その時、社内から「消毒用アルコールだけでなく、スピリッツもつくれば」という意見が出てきたのです。

 

検討した結果、お酒を高濃度アルコールの原料として使用することができるクラフトジンとウォッカの製造に取組むことが決定され、現在では業績回復に貢献しています。そして新商品は各種のコンクールで受賞するに至ったのです。

 

・海外展開への積極的な取組

 

同社は1997年より本格的な海外輸出を開始しました。飲食店へのPR、「サザンビューティー」という英語名による販売といった努力を重ね、徐々に販売数を増やしていき、世界の40カ国ほどに輸出できるようになったのです。

 

また、モンドセレクションで8年連続金賞以上の受賞、全米日本酒歓評会での連続入賞を果たすなど、海外での評価は高まっています。また、2013年には、海外での安全な食品類の指標となっている「コーシャ(kosher)」において「日本酒」と「糖類無添加梅酒」で同時に認定されました。

 

●取組の効果やポイント

 

・脅威や逆境に対する耐性の強化

 

同社は東日本大震災で経営危機に直面した経験を有していますが、今回のコロナ禍という脅威にも果敢に立ち向かい乗り越えつつあります。事業経営には回避が困難なリスクがいくつもありますが、自然災害やパンデミックなどはそうしたリスクであり、直面した時には迅速かつ適切な行動が必要です。

 

今回は消毒用アルコールが不足するという社会問題が発生して、それを解決する行動は自社の生き残り策としても機能しました。また、その消毒用アルコールの生産の経験をスピリッツなどの新商品開発に活かしています。

 

逆境にある中で新たなニーズや課題解決の道を探り、新ビジネスとして展開できる経営力が変化の激しい現代で生き残るためには不可欠です。

 

 

3-5 農業の科学化推進の取組

●会社概要

 

  • 会社名:株式会社ファームシップ
  • 所在地:東京都中央区日本橋浜町
  • 従業員数:社員72名、パート216名(2022年5月末現在)
  • 事業内容:植物工場の建設および事業運営(生産から流通まで)等

 

●取組方針等

 

日本の農業では、働き手の高齢化・後継者不足による農業従事者の減少、国内の耕作放棄地の増加、農業所得の減少、国内自給率の低下、温室効果ガス排出量の問題、など解決すべき課題が山積しています。

 

こうした課題解決に取組むためには、革新的な先端技術の活用や次世代型の植物工場が必要であり、同社はそれらに取組んでいるのです。

 

●取組やビジネスの内容

 

・最新の植物工場の設置・運営

 

同社と三菱ガス化学株式会社は、完全人工光型植物工場における野菜の生産・育成および販売事業を行う合弁会社のMGCファーミックス株式会社を設立し、その完全人工光型植物工場を2019年11月より稼働させました。

 

完全人工光型植物工場は、太陽光併用型植物工場と違って、外部と遮断された空間でLED照明だけを光源として利用し、光量、温度、湿度、養分、水分供給量、炭酸ガス濃度に至るまで、植物にとって最適な条件で管理し水耕栽培します。

 

外部と遮断された室内であるため、雨、風等の外部環境の影響を受けず、害虫、菌などの影響を抑えられるため農薬も必要ありません。そのため、「安全で安心」なお野菜を、一年を通し、計画的かつ安定して提供することが可能です。

 

加えて、生産に使用する水の量も削減できるため環境負荷の少ない生産が実現できます。

 

また、同社は菱電商事株式会社と植物工場野菜の生産を行う合弁会社「ブロックファーム合同会社」を設立(設立日2020年10月14日)し、次世代型植物工場の事業運営をスタートさせました。

 

ブロックファーム合同会社が運営する植物工場の特徴としては、以下の点が挙げられます。

 

  • ・閉鎖型植物工場では世界初のほうれん草の大量生産
  • ・全量自家消費メガソーラーを併設した自然エネルギーの利用
  • ・独自の生育・環境制御技術を活用して使用電力の50%削減(従来工場比)
  • ・栽培・加工・冷凍一体型施設導入によりライフスタイルの変化に伴う市場ニーズへの対応が可能

 

この事業を契機として両社の植物工場における運営実績ノウハウと研究開発成果である栽培技術・システム、バイオテクノロジー、IOT・AIを活用した生産システムが組合わせられます。同社はそうした知見をもとに、新たな植物工場の事業モデルを確立し、持続可能な農業の実現に取組んでいくとのことです。

 

●取組の効果やポイント

 

・農業の科学化の推進

 

植物工場では、自然に左右されず光量、温度、湿度、養分、水分供給量などの生産要素を一定にコントロールすることができ、季節に関係なく品質の良い作物を安定して収穫できます。また、暴風や大雨などの自然の驚異、害虫等の影響も受けにくくなるため、計画的で安定した農業経営が可能です。

 

植物工場内での労働は通常の屋外作業よりも負担が小さいため、労働環境としては働きやすい職場となるため、従業員の確保も容易になります。

 

・安心・安全の食品の提供

 

農薬を使用しない栽培は健康志向や安全志向の意識の高い人に好まれ、通常の作物との差別化も可能です。また、害虫や菌などの影響も押さえられるため、この点もアピールポイントになり、価値の高い作物としての評価が期待できます。

 

・科学化の推進には他社との協力が重要

 

新しい生産システムの開発には様々な技術の活用が必要になり得るため、他社の知識・技術・ノウハウ等を利用することは重要です。互いに得意な分野を持ち寄り、苦手な分野の克服などを実現すれば、イノベーションも起こしやすくなるでしょう。

 

 

4 食品業界の課題解決を目指す新設会社等の事業の進め方と成功のカギ

食品業界の課題解決を目指す新設会社等の事業の進め方と成功のカギ

 

会社設立して食品業界の課題解決に向けた事業を行う場合の進め方や成功のポイントを見ていきましょう。

 

 

4-1 食品業界の課題やニーズの把握

ビジネスのもととなる「ニーズ」には、人々の直接的な「欲しいモノ」や「欲するコト」だけでなく、人々や社会が抱える問題・課題も含まれます。

 

たとえば、社会において、何か問題や課題が存在するならそれを解決して欲しいというニーズが存在して、1つのビジネスチャンスになり得るのです。これまで見てきた通り食品業界には様々な問題・課題が山積しているため、取組み方によってはビジネスチャンスが沢山存在していることになります。

 

問題の多い業界という認識で食品業界をみれば、同業界への参入は魅力度が低いことになりますが、見方を変えれば逆にチャンスが多いと評価できます。また、問題が多い状況で解決できる手段を講じることができれば、他社との差別化が可能となり成長に繋げることも可能です。

 

ただし、そうした行動・経営を行っていくには、食品業界の問題・課題に関する情報を多く集め内容を正確に把握することが第一に求められます。食品業界といっても多様な業者が多く存在しており、業種ごとにその課題の内容が異なることも多いため、多くの情報を正確に把握することが重要です。

 

そして、自分が有する食品業界に関連する知識・ノウハウなどと、それを活かせる業種の課題をマッチングできれば、その課題解決が可能なビジネスを構想することができます。

 

 

4-2 課題解決型のビジネスモデルの構想

フードロス問題、貧困問題、コロナによる影響、人口減少による需要の減少、等の問題について自社の強みを活用し解決していく場合、それをビジネスとして成立できるように「ビジネスモデル(ビジネスの仕組み)」を策定しなければなりません。

 

たとえば、フードロス問題に取組むにしても様々なアプローチがありますが、自身や自社の強みとなっている経営資源(技術、知識・経験や人脈・関係会社等)によって取るべき方法が異なってきます。

 

事例に挙げたテンダーバンズでは創業の発端となったパン職人がパンの冷凍技術を保有しており、その強みで廃棄パンの問題を解決したいとの思いから同事業が開始されました。

 

ニーズに対してそれを充足できる強みをマッチングできれば、ビジネスのベースとすることができ、後は実際のビジネスの内容や推進していく方法などの一連の仕組みを作っていくことになります。たとえば、以下のような内容です。

 

  • ・冷凍して販売する商品をハンバーガーとする
  •  

  • ・その商品化のためのハンバーガーを冷凍・解凍して美味しく食せる技術を確立する
  •  

  • ・健康や安全志向の意識の高い人、食材にこだわりのある人などをターゲットとして、オーストラリア産ビーフやチーズなどの食材にこだわり、安心・高品質な商品とする(商品のポジションを決める)
  •  

  • ・袋ごと電子レンジに入れ、1分半程度という短時間で食せる手軽さをもたせる
  •  

  • ・廃棄の心配をなくすため、好きな時にいつでも食べられるように冷凍保存の期間を10カ月という長期間とする
  •  

  • ・認知度を高めるため、メディア掲載、クラウドファンディングやSNSなどを活用したプロモーションを行う
  •  

  • ・販売チャネルは自社サイトとクラウドファンディングとする

 

このようにターゲット(who)を設定し、そのニーズ(what)を明らかにしてそれを充足する商品内容や提供方法等(how)、を設定することがビジネスモデルの構想であり、ビジネスを成功に導く上でのコアになります。

 

 

4-3 課題解決に向けた仕組みづくり

上記のビジネスモデルの中核部分は、課題を直接的に解決する仕組みです。たとえば、先のテンダーバンズであれば、ハンバーガーに関する冷凍技術の確立が該当します。

 

この例の場合は事業の発案者が関連する冷凍技術を保有しており、当該用途での開発を成功させてビジネス化できました。また、日清食品グループでは「グリーンな食材」の実現のために培養肉の実用化を進めています。

 

もちろん自社で解決するための技術を直ぐに開発できない場合は他者の資源を利用することも有効です。たとえば、あるシステムを開発するためのIoTやAIの知見がない場合には、それらを得意とする事業者と連携する、既存の特許を利用する、といった対応も必要になります。

 

海外取引の拡大という課題に向けては、貿易商社やジェトロ(日本貿易振興機構)などの海外進出を支援してくれる機関等を活用しながら海外展開のノウハウを獲得するといった方法は重要です。

 

このように課題解決に向けたコアの仕組みを第一に確立することが求められます。

 

4-4 他者資源を活用した仕組みづくり

会社設立して間もない企業は全般的に経営資源が脆弱であるケースが多く、自身の経営資源だけでは新ビジネスを適切に展開するのは困難です。そのため創業時などでは他者のお金、人、もの、情報といった資源を利用できることが重要になります。

 

たとえば、海外展開の経験がない者が海外進出する場合、商社やジェトロなどに相談し支援を受けるのが有効です。そうした機関を通じて自社および自社製品にとって適したコンクール、海外展示会やイベントなどを教えてもらい参加するという方法が取れます。

 

また、具体的な取引先やバイヤーなどの紹介や面談が得られる機会などを、彼らを通じて持つことも不可能ではありません。また、現地での直接的な生産や販売を行う場合、それらに関する法律、文化や労働などに関する情報を入手することも可能です。

 

どのようなビジネスをするにしても資金不足に直面する可能性は高いため、調達先を確保することは欠かせません。公的機関からの融資のほか補助金等の活用は新設会社等には有力な調達先になるため、利用できるように取組むのが望ましです。

 

最近では社会課題を解決するビジネスに対して出資してくれる方が増えているため、クラウドファンディングも積極的に利用するとよいでしょう。

 

もちろん技術的な課題を解決するためには他社との共同による事業推進も有効です。農業における生産性等を高めるために他者の優れた技術を活用できれば、より高度で効果的なシステムも実現しやすくなります。そのためには適切なパートナーを探す・連携するための機会を増やす努力も怠ることができません。

 

 

4-5 販売を促進するための仕組みづくり

課題解決の中核的な仕組みができれば、次はビジネスとして成立させるための販売を促進するための仕組みづくりが必要です。具体的には、売るための仕組みづくり、すなわちマーケティング戦略を策定し実施することが求められます。

 

いくら課題解決に向けた優れた技術やノウハウを獲得してもそれをビジネスとして展開するためには適切なマーケティングの実行が不可欠です。どんな付加価値の高い技術等をもっていても売り方が悪ければ、適切でなければ、欲する人々に認知されず、売上・利用が進まない、という状況に陥りかねません。

 

特に会社設立したばかりの会社が業界で認知され、ブランド価値を有するには、的確なマーケティング戦略の実施が必要です。ターゲットを明確に選定し、彼らにもっとも効率的なアクセス方法でプロモーション活動を行うことが求められます。

 

たとえば、現代はクラウドファンディングで資金調達が可能な時代ですが、資金提供者に自社および製品のファンになってもらうことも可能です。そして、彼らのSNSなどを通じた口コミで認知度を高めることも期待できます。もちろん自社がSNSで情報発信したり、インフルエンサー等を活用したりする販売促進も重要です。

 

海外展開では、現地でのチャネルの地道な開拓のほか、関連する分野の海外展示会、商談会やコンクールなどに参加したり、各種のイベントとコラボしたりして、販売促進することも有効な方法になります。

 

食品に関する社会課題の解決に興味を抱く消費者や事業者は増えているため、そうした人達に最も効果的にアクセスできてPRできる方法を検討しましょう。

 

 

5 まとめ

食品業界の課題解決を目指す新設会社等の事業の進め方まとめ

人々の環境意識や健康意識などが高まる中、食品業界の課題解決に向けた事業に取組むことは、ビジネスでも企業倫理の上でも価値があります。

 

食品業界の問題を解決することで、環境負荷の低減、食品ロスの削減および飢餓の撲滅、健康の増進、のほか食品事業の成長の持続や雇用の維持などを実現することが可能です。

 

問題・課題はニーズの1つであり、解決することは新たなビジネスになり得るため、この機会に課題解決に向けた事業に取組むことを検討してみてください。


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