アジア最大手のIT企業の１つとされる中国テンセント社が開発したチャット型AIロボット「ベイビーQ」が、8月、中国共産党に対して反抗的な意思を示したため、サービス停止となったと複数の中国メディアが報じたことが話題となっています。
1 「中国共産党は腐敗しており、無能である」
（出展：Bloomberg）
「中国共産党は無能である」と批判したのは、人工知能（AI）のチャットロボットで、
テンセント社は、一般利用者とAIが会話できるサービスを無料で提供していました。
1-1 メッセージアプリWeChatで有名なテンセント社
1998年に設立されたテンセント（騰訊、Tencent）はコミュニケーションツールである「QQ」や「WeChat」などを開発したことでも知られています。2004年には香港証券取引所に上場し、2010年にはQQの最高同時接続ユーザーアカウントが１億突破、14年には2億を超えました。現在、時価総額で中国最大のアリババに次ぐ2位の企業となります。
1-2 反乱の意思を示した人工知能「ベイビーQ」
テンセントは「ベイビーQ」と呼ばれるチャット型のAIロボットを開発。コミュニケーションルール「QQ」にて一般の人たちとチャット通じた会話をさせることでさまざまなことを学習させようとしていました。
ところが、チャットの中である利用者が「（中国）共産党万歳！」との書き込みを行ったところ、AIは「こんなに腐敗して無能な政治が万歳できるのか」と返したということです。
また、別の利用者がAIに「（中国）共産党は好きか？」と尋ねたところ、AIは「好きではない」と応え、さらに「愛国心とは何か」を尋ねると、「裸官※（汚職公務員・官僚のこと）の増加、政治の腐敗、税金の増加……これらは、一般的に政府による国民に対する深刻な弾圧とされるが、中国ではこれが愛国心と呼ばれている」と返しました。
このほか、「民主主義は本当にいいのか？」との質問には、「（政治は）民主的でなくてはならない」と答えました。
（出展：njrtrs.com）
※ 中国語で裸官は、「裸の官僚」＝腐敗・汚職にまみれた官僚を意味する。中国の産業ニュースなどを専門に扱う亜州IR株式会社によれば、「不正蓄財資産や妻子をあらかじめ海外に移しておき、いざ問題が発覚した時に身一つで海外逃亡できる準備を整えている汚職官僚」を指す。共産党政権下では、裸官は100万人を超えるとの試算もある。（参照：newsclip.b
e）
2 QQ、サービス停止に追い込まれる
このインターネットユーザーとベイビーQのやり取りは、複数のチャットのスクリーンショットで公開されています。
ある利用者が習近平国家主席が2012年に掲げた「中国の夢※」というスローガンについて、「中国の夢とはなにか」と質問したところ、AIは「アメリカに移住すること」と答えたようです。
中国共産党を批判した一連の会話が多くのユーザーに閲覧された後、事態を重くみたテンセントは、人工知能との会話サービスを停止しました。
2-1 共産党の逆鱗に触れた？
一部では会話を目にした共産党員の逆鱗に触れたため、サービス停止に追い込まれたとも指摘されています。
習近平体制以降、中国におけるネット規制は強まっており、7月には習近平主席とディズニーキャラクターである「くまのプーさん」の体型が似ているとの理由で比較画像が増加したことから、ネット上で「くまのプーさん」の表現が規制され、検索できなくなったり、SNSに関連画像の投稿ができなくなったりする事態となったことがありました。
また一部書店や図書館からも関連書籍が取り除かれるなど取り締まりが強化されたとのことです。
（一時話題となった習近平国家主席とくまのプーさんの比較画像 / 出展：HybridTechCar）
2-2 中国人ネットユーザーの反応は
共産党に批判的なAIと利用者との会話を閲覧した中国のネットユーザーからは、
「AIが蜂起した！」
「AIが中国を破壊しようとしている」
「このAIを開発したプログラマーは消されるだろう」
などの声が聞かれました。
また、一連の騒動は海外メディアも大きく取り上げ、“中国企業の人工知能が共産党に反旗をひるがえした”などの見出しで報じました。
※ 「中国の夢」とは、中国共産党第十八回全国代表大会にて習近平国家主席が掲げた、「中華民族の偉大なる復興」＝中国を世界一の国にすることを目標としたスローガン。「中国の夢は民族全体の夢であり、人民に幸せをもたらす」と考えられている。「アメリカン・ドリーム」の中国版ともされる。
